ナニコ、死して揺るがず

吉永動機

「何かを物語る時に、注意深く聞いてもらえる方法を知っている?」

彼女は平坦な口調で言った。

、と念を押すしかないだろう」

俺は常識的に答えた。しかし彼女は不服そうだった。

「ふうん。じゃああなたは、道徳の授業を覚えてるっていうの?」

「…………」

「そうじゃなくて、こう言うの——『この物語には、ひとつだけ大きな嘘が混じっています』」


×


今こそ、その教えを守ってみようと思う。

……これから俺が語る物語には、大きな嘘が混じっている。

こんな話は、嘘でなければならない。


×


×


×


ここ最近の観察で、わかったことがある。

なにの手の大きさがちょうど十五センチであること。

そして、彼女の黒く光沢のある髪の毛は、一番長いところも十五センチ。女子にしては短い方だ。

目尻から顎の先までも十五センチ。小顔だ。

へそから腰までも十五センチ。細身だ。

後ろを振り向く時、必ず頭が十五センチ動く。

拍手をする時、手と手を十五センチ開ける。

歩き出す時、一歩目は十五センチだけ足を前に出す。

会釈をする時、十五センチ頭を下げる。

「そんなことないよ〜」と謙遜する時、手を十五センチ横に振る。

国語の教科書を読み上げる時、教科書を顔から十五センチの距離に持ってくる。目が悪いのか、かなり近い。

彼女は常に十五センチという距離を基準に生きている。

まるで黄金比のように、十五センチという取るに足らない距離が彼女の中に無数に隠れている。


——俺は、彼女に恋をしたんだ。

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