第二話

 俺たちはジャージ姿で校庭に立っていた。横には木の枝に服を着せたような陸上部の顧問が立っている確か音楽の二階堂にかいどう先生だったはずだ。俺たちと対になるように数人の男女が思い思いの場所で座ったり立ったりしている。俺の疑問が通じたのか、二階堂先生が口を開いた。


「あーすまんな、陸上部は競技が多くてな、高飛びは第二顧問である先生がやる事になっているっても先生も詳しい事はわからんから部長に丸投げしてる。じゃ、先生は音楽室のほうに行くから後は頼んだぞ」


 にこやかに笑う二階堂第二顧問は軽い足取りで校舎へと戻っていく。

 俺と、隣に居るやつは置いてけぼりを食らわされて顔を見合わせた。

 どうしようかと迷っていると長い髪を束ねた女性が前に出てきた。白い大きめのシャツに学校指定のハーフパンツ、シャツが少し透けてスポーツブラの線が見えた。


「初めまして、えーっと二宮君に草薙君だったかしら、部長で二年の押切紗枝おしきりさえと言います。ご覧の通り高飛びは人気が無くて男女混合練習になるけど我慢してください、軽く自己紹介でもしてもらおうかしら」


 自己紹介と言われても……まぁいいか。

「二宮ナツ、高飛び経験は無し動機は、なんだろカッコ良さそう?」

「草薙誠、同じく高飛び経験は無し、動機はコレの保護者」

「おいっ」


 隣に居る草薙をどつく。そうだよっ、なんでコイツまで部活についてくるんだ。


「そもそも、なんでお前まで一緒にくるんだよ」

「いやーん。彼が激おこー部長助けてー」


 黄色い声を上げて押切部長に泣きつく草薙。余りの事に回りの部員も笑い出す。見ると押切部長も頬をプルプルと震わせていた。下を向き頬を叩く押切部長、顔を上げると先ほどと同じ真面目そうな顔にもどしていた。


「な、仲いいのねっ。左から三年の近藤こんどうまさし先輩に同じく三年の三枝未子さえぐさすえこ先輩、次に二年で部長をやらして頂いている私。同じく二年の須藤京子すどうきょうこさんと、後は一年の藤川茜ふじかわあかねさんね」


 部長の紹介で男女の部員を紹介される、部活動に来ているのは俺達を含め僅かに七人。幽霊部員は八名ほどど聞かされた。


「こんな感じかしら、えーっと、藤川さん、と近藤先輩、悪いけど二人のアシストお願いできるかしら」

「ウッス、いやー男って俺一人だろ? 肩身狭かったんだーよろしくなっ」

「はい先輩っ、茜精一杯がんばります」


 草薙のほうに高身長でタンクトップからはみ出た筋肉を動かし近藤が、もとい三年の近藤先輩が付く。俺のほうには先ほど紹介の中に居たショートカットで小柄の一年、藤川茜が付いた事で草薙の壮大な文句が聞えてくる。俺は直ぐに無視する事に決めた、藤川茜がこちらに来て横に立つと笑っている。


「あははは、いいの? 恋人君近藤先輩に取られるよっ」

「知らんし、恋人でもないしっ」


 全力で否定をする。断じて恋人ではない。

 クスっと笑った藤川は改めて自己紹介をするきで居る、先ほど教えてもらった名前を俺は言う事にした。


「えっと、私は――」

「藤川さんだろ」

「そうそう、藤川茜。同じ一年なんだからさーさん付けは良くないよ。うん。茜でいいよナツ君」

「俺に君つけるのはいいのか……?」

「あ、本当だ。男は細かい事は気にしない、じゃ宜しくナツ君」


 何も知らない俺は茜の言うとおり準備運動を始める、足を伸ばしてアキレス腱をゆっくりと伸ばし屈伸などを盛り込んだ柔軟体操を始めた。

 俺が尻を地面につけ両足をどこぞのタレント見たく開脚ポーズを取ると、背後にいる茜の小さな笑い声が聞えてくる。


「あのなぁ」

「ごめんっ。だって予想以上に綺麗な開脚で思わずっ、それじゃ押すよおおっおおおっ! ナツ君体柔らかいかもー」


 そりゃ柔らかくもなりますよ。小柄な女の子が俺の背中を全体重をかけて押してくれるんだもん。背中には茜の体温というは温もりを感じるし、ちらっち横を見ると草薙が近藤先輩に同じ事をされている、こっちでよかった……。

 そして今度は俺が茜を押す版だ、汗ばんだクラスメイトが押されるのを足を広げて待っていた、その背後に立つとゴクリと唾を飲む。俺が中々押さないもんだから不思議な顔で振り返る茜。


「あのー背中の手置いたら早く押してほしいですけどー」


 感のいい子供は嫌いだよ、というか俺が茜の背中に手を置いたまま考えていたからだ。


「なっ、んな事考えてないからっ。ほらほら押せばいいんだろ」


 力一杯押すと潰れたカエルのようになった茜から悲鳴が聞える。


「ちょっと。力強いってっ。うわ痛いって、足が裂ける避けるからっゆっくりゆっくり……」


 当然俺の耳には茜の悲鳴は聞えてなかったので、運動が終わった後に怒られた。

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