ファースト・コンタクト~その三~
突然の警告音がコックピットにこだまする、奏志は瞬時に機体を反転させたが、ほんの少しだけ間に合わなかった。左腕のシールドが軋み、めりめりと音を立てる。カウンタースラスターを吹かし、シートから投げ出されそうな二人をハーネスが引き止めた。
「何が! 」
「もう一匹! 」明希の叫びを聞いて奏志は再びライフルを構える。引き金を引くか引かないかの瞬間にライフルが溶け落ちる。手前にあった岩塊が砕け散ったかと思うと「何か」の触手が殺到する。
「糞ったれ! 」奏志は照準すら合わせずにトリガーを引く、頭部バルカンが唸りを上げ、弾かれた触手が力なく地面を叩く。
「後方からも! 」明希の声に奏志は大慌てでフットペダルを踏みこむ。上空に上がると、触手は辺り一帯を既に取り囲んでおり、その真ん中で「異形」は鎌首をもたげていた。
「野郎……! 」完全に不意を衝かれて歯ぎしりする奏志の後ろで明希がトリガーを引く、続けざまに閃光が乱れ飛ぶが、一発として当たらない。それどころか機体は触手に掴まれ、凄まじい勢いで地面に叩きつけられた。装甲が拉げた鈍い音に奏志がセンターのパネルを見ると、背部が不能を示す赤に染まっている。二五式の装甲は固いと言えども、流石に限度がある、奏志は冷や汗をかきながらも機体のコントロールを取り戻そうともがく。
「畜生! 」スラスターを滅茶苦茶に吹かして触手から逃れようとしても、少し離れたところでまた地面に突っ込む。そんなことを繰り返しているうちにパネルには赤い部分が増えてゆく、遂に二五式はだらりと力なく宙づりにされた。掌のように、しかし苛烈に機体を押しつぶそうとする「何か」その瞳のない顔は二人の眼には残忍に笑っているかのように映った。
「ごめんなさい、かなりヤバいです」奏志は震えた声で一言、そう言った。 「諦めないでください」明希は気丈な瞳のままトリガーを引き続けている、火星の夕焼け空に二本の光条が伸びていく。
ミシッ、コックピット直上からの音に奏志の顔は蒼ざめた。もう無理かもしれない、俺の身勝手な行動に女の子を巻き込んだ挙句、死んでしまうかもしれないなんて、どう詫びたらよいのだろう、言葉が見つからない……奏志がシート越しに明希の様子を見つめる。彼女はこの状況にあっても毅然としたまま、「何か」に必死に抵抗している。
ダメだ、原嶋さんだって必死なのに、男の俺が情けなくてどうする。奏志は固く歯を食いしばり、もう一度操縦桿を握り直す。彼の決意に呼応するかのようにパネルには「排出」の二文字が浮かんだ。二五式にはペイルアウト機構は搭載されていないはずなのに……奏志は困惑したが、それに最後の望みをかけることに決めた。「衝撃に備えてください! 」奏志は叫び、パネルに軽く触れた。轟音が響き、閃光に二人は目を閉じる。
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