ファースト・コンタクト~その二~
ズシリと重い音が響き、隔壁が下りる。ほぼ同時に、全周囲モニターがコックピット内を静かに照らした。彼がフットペダルを一度踏み込むと、二五式は膝立ちの姿勢から立ち上がった。背部に装備された荷電粒子砲が格納庫の天井を裂き、不快な音を立てる。すでに目前に迫っていた「異形」と正対する。
「揺れます! 」明希にヘッドセットを投げると、奏志は力強く、一歩踏み込んだ。間抜けそうに口を開けたままの「異形」の前で空に舞い上がる二五式、反転してスラスターを吹かす。「異形」はそれを追って翼を広げた。逃げられないことを予感し、奏志は声を上げる。
「武装は! 」
「右腕部ライフルの残弾は八十発にカートリッジが二、頭部バルカン千二百発、腰部に高振動ブレードが二本と、それから背部に荷電粒子砲が二門、ついでにミサイルが六! 」明希は早口で返す。
「それだけあれば十分です! 」奏志は操縦桿をひねって反転し、弾丸をまき散らした。
「まさか、戦うつもりですか? 」不安げな明希の声に、奏志は静かに答える。
「逃げられない以上、仕方ないです」ライフルが弾丸を全て吐き出してしまうと、交差点の真ん中に着陸し、手早くライフルのカートリッジを交換する、続けざまに降りてくる「異形」にありったけのミサイルを撃ち込むと、様子も見ずに踵を返して市街地を疾走した。
「ここじゃ満足に戦えない! 」三本目の信号機をへし折った奏志が叫ぶ。
「市街地を出るならタルシス台地が一番近いです! 」
「分かりました! モニターお願いします! 」
「もうやってます! 」ありがとう、という間もなく奏志はスラスターを全開にした。
蒼い粒子をまき散らし、火星の空を染めあげてゆく二五式、眼下に赤い台地が見え始めた頃、奏志は再度反転、残りのミサイルを全て放ってしまうと、コンテナをパージ、そのままの勢いでライフルを乱射する。予想通り速度を上げて突っ込んでくる「異形」を見やると、奏志は声を上げる。
「火器管制は頼みます! 」彼の背後で明希は動揺の呻きを上げた。モニターの端々を飛び交っていたカーソルが動きを止める、ちょうど真正面に標的を捉え、明希はトリガーを引く。機体の背部から鋭く光る二本の光条が伸び、「異形」の胴体を真一文字に薙いだ。血ともオイルとも判別できない、黄土色をしたギトギトの液体を吹き出し「異形」は焦げた肉塊となり果てて赤い大地に落ちてゆく、最大望遠でその様子を見た奏志は軽くえづいた。明希のほうは彼の背中で見えなかったため、素知らぬ顔をしていた。
「一回下りましょう、あの化け物は片づけましたから」涙目で奏志は言うと、機体を下降させる。
地表に近づき、彼はカウンタースラスターを吹かしはじめた。両脚を投げ出し、赤い大地に二本の線を刻みながらの着陸、ガタガタとコックピットは揺れ、機体は岩塊の手前で静止する。二人はほとんど同時に大きく一回深呼吸をした、どっと疲れが押し寄せ、まるで夢でも見ていたかのように暫く黄昏ていた。
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