五つ目の話 自ら毒を食んだ白雪姫

悲しかった。

だって、大好きだった継母に城を追い出されたのだから。

小人たちは助けてくれたけれど、その目には時折、父が昔見せたような嫌な光がチラついた。

どうしてこんなことになってしまったのか。私にはよく分かっていた。

一度だけ継母の目を盗んで、魔法の鏡に聞いたことがあったから。鏡は嘘をつけない。


――鏡よ、鏡。お母様は、私を愛してくれていますか?

――いいえ。あの方は、貴女を憎んでおられます。

――何故?

――それは貴女が


美しいから。


そして今、継母が林檎を差し出していた。

声を変えたってわかる。フードを被っていても。

継母の手に握られた林檎は真っ赤で、ツヤツヤで、甘い匂いがして。


これはきっと、毒林檎だ。


わかる。わかってしまう。わかってしまった!

だって、前にも貰ったことがあるのだから。

あの時は確か、そう。うさぎにあげたんだ。勿論当時の私はそんなこと全く知らずに、単なる善意であげたのだけれど。

私が平然と食堂に行った時の母の、本当の母のその顔といったら!


でもまあ、もういいか。


この先、きっと私は愛してもらえない。

男からは欲望をぶつけられ、女からは嫉妬の念を抱かれる。

それなら、もういい。


私は継母から毒林檎を受け取って、一口齧った。

それは酷く甘美で、幸せな味がした。

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