三つ目の話 妃を殺した人魚姫

お姉様たちがくれた短剣は、殺傷能力があるようには見えないほど華奢だったが、妙な重さがあった。

月の光に鈍く輝くそれは冷たくて、とても禍々しい。

王子様。

貴方は今、眠っているのでしょう。あの女、妃となった女の隣で、幸せそうに、眠っているのでしょう。

どうしてそれは、私ではないの?

私のほうが、ずっとずっと、貴方のこと大好きなのに。

先刻の宴で、一体何度、あの女に微笑みかけたのかしら?

嗚呼、嗚呼!

どうして私は人間に生まれることができなかったんだろう。

魔女に薬をもらったって、真の意味で人間になんてなれなかった。

涙を零すことはできない。一歩歩くたび、足はひどく痛む。

なにより、王子様と結ばれない。

私を愛してくれない王子様。

私じゃない女を愛した王子様。

大嫌いな、王子様。


私の足はフラフラと王子たちの寝室に向かっていた。

きい、と慎重に扉を開けば、穏やかな寝息。

幸せそうな、寝顔。

だけどね、ごめんなさい。最後のワガママ。最初で最後のワガママなの。私には人間と違って、来世なんてないから。

だから。

その幸せを、壊させてね。


きっと私は、もうすぐ泡になって消える。

だって王子様を殺せなかったから。

愛する王子様を殺すなんて、出来るわけがないのだから。

だけど、その代わりに―――



人魚姫の魂は、救済などされることはなく、消滅した。

まさしく泡沫のように、消えてしまった。

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