二つ目の話 ヘンゼルとグレーテルが誰より憎んだ人

森の中の、お菓子の家。

ヘンゼルとグレーテルは、赤々とした竈をじっと見つめていました。

竈はパチパチと木の爆ぜる音を響かせています。

突き入れた魔女は、もう影も形もありません。骨までもが燃えてしまったようでした。

やがて二人は顔を見合わせ頷き合いました。

その表情には、決意に満ち溢れています。


二人は持てるだけの宝石と、壁に立てかけられたものを一つずつとって、お菓子の家を出ました。

明るいうちに、早く。真っ暗な、怖い夜が来る前に。

一生懸命歩きます。

とことことことこ歩きます。


どれだけ歩いたのでしょう。橙色に染まったお日様は沈み掛け、夜はもう間近です。

突然、視界がパッと開けました。森を抜けたのです。

少し先に、我が家が見えます。

丁度、煌々とした明かりが灯りました。

二人は静かに手を繋ぎます。

繋いだまま、さっきまでよりもゆっくりと、家に向かって歩きます。

家の前に立ち、どちらからともなく微笑むと、ヘンゼルがコンコンとドアを叩きました。

家の中で、人が動く気配がします。

ヘンゼルは右手のそれを、グレーテルは左のそれを、強く握り締めます。

がちゃりとドアが開きます。

開ききるその瞬間、二人はそれぞれ片腕を振り上げました。


ぐちゃり。


嫌な音と共に、確かな手応えがありました。

赤い赤い液体が、地面を染めてゆきます。

それは、二人のお父さんから流れ出ていました。

ヘンゼルが振り下ろした斧と、グレーテルの薙いだ鉈が身体から生えています。

お父さんは状況を飲み込めていません。身体の痛みすらも、感じられていません。


ただ、わけのわからないままぼやけていく視界に最後に映ったのは、自分の子供たちの、これまで見た中で一番嬉しそうな、満面の笑みでした。

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