御伽噺狂騒曲

蒔田舞莉

一つ目の話 嘘をつけなかった魔法の鏡

「鏡よ鏡」


毎日語りかけてくれた、私の言葉を欲していた主はもういない。

朽ちた、城だったものの一室。女王の隠し部屋の隅に私は今だに置かれている。

主であった女王は、死んだ。

姫に、娘にした仕打ちが露見したからである。


そんなことをする女王は処刑してしまえ。

そんな女王を迎えた王家など滅んでしまえ。


一度ひとたび誰かが言い出せば、広まるのはあっという間だった。

革命が起き、国は滅ぼされた。

新しい城が建てられ、新しい王が、国が誕生したが、私は気付かれることなく放置されたし、新しい国もすぐに滅んだ。

それから長い年月をかけて、国名も王も、沢山変わった。

だけど私は、変わらずここにいる。


人というのは、満足することを知らない。

自分より上の人間に腹を立てる。

自分よりいい暮らしをしている奴がいる。ならば自分ももっといい暮らしを。

自分より洒落た奴がいる。自分ももっと。

もっと、もっと、もっと。

一を手に入れれば十を欲しがる。十を手に入れれば、百。

女王は欲しがる対象が”美しさ”であったというだけ。

自身を棚に上げて女王や王家にに罵声を浴びせていた民衆も、女王も、つまるところ同じなのだ。


あの時、嘘をつけていたならば。

私が魔法の鏡なんぞでなかったならば。

嘘をつけない、なんて力さえなければ。

女王はあんな事をせずに、今も、目の前で問いかけてくれていたのではないか。


「鏡よ鏡」


私を呼んで。


「世界で一番美しいのは、だぁれ?」


ああ、ああ。それは。



私は魔法の鏡。

主を失った私は、今日もひっそりと、主の部屋に存在する。

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