六月十六日(金)雨のち晴れ☂

今日は夕空に虹が出た。

慌てて空良そら先輩に言えば、眩しそうに見つめて微笑んだ。

どこか切なげな微笑みが、すごく夕空にあっていて、思わず写真。

そしたら空良先輩は苦笑いを浮かべて、よく飽きないねって。

飽きるどころか別フォルダーに入れて鍵かけてますよ。……言わないし、見せないけど。

日課ですからって言えば、そっか、と返された。

空良先輩はじっと虹を見ていた。

その手はずっとデジカメを握っていて。

人差指が電源ボタンを行ったり来たりしていることに気が付いた。

少しだけ迷った。

また震えてしまうんじゃないかって。

言ってしまっていいのだろうかって。

でも言わないと、ずっと空良先輩は写真を撮ることができないままだと思ったから。

本気で写真を止める気だったら、デジカメをずっと首から下げていることも、部活に居続けることもなかっただろうから。

……きっと、写真を撮りたい、とは思ってくれているだろうから。

だから、言ったんだ。


撮らないんですか?


って。

空良先輩は泣きそうな笑みを浮かべた。

堪えようとしてる空良先輩に、頭の中の私が、堪えさせちゃいけないと囁いた。

だから空良先輩の名前を呼びながら、制服の裾を引っ張った。


電源だけでも、入れてみませんか?


空良先輩が困ったように笑う。

人差指はそれでも、電源の周りを彷徨っていて。

その指は、手は、徐々に震えだして。

私は両手でデジカメごと空良先輩の手を包み込んで、一生懸命撫でた。

どうか、このまま空良先輩が諦めてしまいませんようにって。

いつか、ちゃんと写真を撮れるようになってくれますようにって。

そのときは、晴れな笑顔を浮かべられますようにって祈りながら。


空良先輩の震えは徐々に治まっていって。

一緒に離れかけたその手を、私はギュッと掴む。

空良先輩は驚いたように私を見つめていた。


先輩、あかねさんが亡くなったとき、泣けましたか?


空良先輩は、静かに微笑んだ。


あのリストに、俺を泣かせるって書いてあったのは、そういうことだったんだね。


人は、泣くべきところで堪えてしまうと、それがトラウマのようなものになってしまうこともあるって、授業で先生が言っていた。

この話を聞いて、私はメモを作ろうって決めた。

もしかしたらなにか、茜空の少女を撮った後にショックなことがあって、空良先輩はそのとき泣けなかったことによって、そういう状態になっているのかなって。

まさか、ではあったけど。


ごめんね、と謝られた。


俺はまだ泣けないって。

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