六月十四日(水)晴れ?

ふっと思い立って、授業中にとあるメモを書いた。

念のため、お昼休憩中にあずさ先輩にそのメモをチェックしてもらうと、お礼を言われた。

どうしてかわからなくて首を傾げれば、梓先輩は柔らかく微笑んでくれた。


無理矢理頼んだのに、放棄せずにこうやって、空良そらが写真をもう一度撮れるようになるためにどうしたらいいか、考えてくれるから、らしい。


とんでもない、と私は否定した。

だって、いつか空良先輩がちゃんと写真を撮れるようになったら嬉しいし、なにより、空良先輩の笑顔を見てみたいから。


そこまで伝えたときの梓先輩の顔。

思い出しただけでも顔が赤くなるし、こう、身体中がむず痒くなる。


自覚なんてなかった。

だから、胸が音を立てたって、まあ、顔が好みなんだし、と受け流せていたんだと思う。


確かに好きだけど、それだけじゃない。

笑ってほしい。

晴れな笑顔を見たことがあるかもしれない梓先輩が羨ましい。

……どうしてか、なんて赤くなってしまった時点で、それはただの先輩への感情ではなくて。

自覚した途端に、昨日空良先輩に触れた手が猛烈に熱くなって。


少女よ、それは恋じゃあないかい?

なんて、おどけた調子で訊かれて。

少し悩んでから頷けば、梓先輩は困ったような笑みを浮かべた。

残酷なことを言うけどって前置きされて。

きっと、その恋は実らないよって。


空良先輩の中には、あの写真の女の子がいるみたいで。

理由を訊いても、梓先輩は教えてくれなかった。


結局、どういう顔をして空良先輩に会えばいいのかわからなくなって、私は今日初めて、空良先輩に会わずに帰宅した。


そしたら空良先輩からメッセージが着た。

大丈夫? って。

梓先輩から、私が体調悪そうだったから帰ったんじゃないか、と聞いたらしい。

空良先輩の自撮りを見たら元気出そうですって送ったら、既読が付いたまましばらく時間が経って。

画面の向こう側で空良先輩がまた震えてるのかも、と不安になって、すぐに冗談です、元気ですよと送った。そしたら、よかったって返ってきた。

即座に既読が付いたから、ずっと迷ってたんだろうな、と思うと本当に申し訳なくて。

だけど謝れば、きっと空良先輩のことだから負担になるだろうと思って。

明日は部活に顔出しますね。

そう送ったら、少ししてから、お大事にって。

梓先輩の心遣いから生まれた嘘に少しだけ胸が痛みつつも、わざわざメッセージを送ってくれたことが嬉しかった。


今日の空良先輩の天気は、わからない。

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