六月十三日(火)曇り☂

空良そら先輩が、やっとデジカメの電源を入れようとしてくれた。


空良先輩の写真、もっと見たいですって言ったら、昨日梓あずさ先輩が見せてくれた写真を出してこようとしたから、慌てて、その中にはないんですかって、デジカメを指差して言ってみた。

実は、授業中、ずっと空良先輩にこう言えば、デジカメの電源を入れるくらいはしてくれるかな、と考えてた。

空良先輩は少し悩んだ後に、少しだけなら入ってるよ、とデジカメを手に取った。

だけど、そこからが長かった。

空良先輩の手が、小刻みに震えだして。

そのままデジカメを落としかけて、私は慌てて空良先輩の手ごとデジカメを両手で包んだ。

部室のクーラーが効いているせいか、デジカメも空良先輩の手も少しひんやりとしていて。

どうやったら震えが止まるのかわからなくて。

どうして空良先輩の手が震えているのかわからなくて。

ただただ右手で擦ってあげると、徐々に徐々に震えが治まっていくのがわかってホッとした。

ごめん、と小さく謝る空良先輩が、酷く弱っているような気がして。

また今度、見せてくださいねと言ったら、諦めたような表情で、いつか、ねと返された。

その表情が頭にこびりついて剥がれてくれなくて。

今日のバイトは普段やらないようなミスを連発した。


ちょっとだけ癒されたくてさっきスマホを見て気が付いた。

今日の空良先輩の写真、撮り忘れていた。

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