六月五日(月)晴れ

今日はバイト先で、キャラメルマキアート、大成功。

生クリームの巻具合も、形も、キャラメルソースの細さも。全てがサンプルの写真通り。

どうせ飲むときにかき混ぜられちゃったり、無遠慮にストロー刺されたりすることは分かっているけれど、でも地味に嬉しい。

ファミレスバイトを初めて今日で二ヶ月。まかないは大好きなオムライス。

……なんだか、とても、運がいい。


柄にもなく鼻歌を歌いながら帰っていたら、やっぱり交差点に空良そら先輩がいた。

声をかけようかどうしようか悩みながらその背中に近づいていたら、車が来るのが見えて。

空良先輩の身体が、一瞬揺らいだ気がして。

慌てて走って、空良先輩のTシャツの裾を引っ張った。

振り向いた空良先輩が、驚いた顔で私を見た。

その手にはいつも通り、デジカメが握られていて、他に荷物はない。

心臓が、止まるかと思った。

仲がいい悪い以前に、言葉を交わしたことが片手で数え切れるくらいの相手でも、もしかしたら目の前で死んでいたかもしれないと思うと、今でも心臓が痛い。

デジカメを見ていたのか、と訊けば、空良先輩は、まあ、うん、なんて言いながらそっとデジカメから手を離す。

ちらっと見えた画面は、時間が過ぎたからなのか、暗かった。

歩きデジカメ、やめてください。

少し強めの口調で言ったら、空良先輩は曖昧に笑った。

そして、ありがとう、と言われた。


……どうして、うん、とか、うなずくとか、そういうのじゃなくて、お礼なんだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る