六月二十八日(水)雨

あずさ先輩から、空良そら先輩のことを色々と聞いた。

ずっと、言おうかどうか悩んでいたみたい。


そのおかげでわかった。

どれだけ空良先輩を思っても、届かない理由。

空良先輩は、あかねさんが事故にあった日、本当は告白するつもりだったんだ。

梓先輩曰く、二人が付き合うまで秒読みだったらしいし。

きっとあの日、茜さんが事故にあわなければ、二人は恋人同士で、私は空良先輩のことを知らないままいれた。


空良先輩は、自殺するつもりでいた。

茜さんのあとを追おうとして、いつもあの場所に立っていた。

お墓参りに行く数日前。

私が空良先輩にあのリストを渡したあと。

ポツリとそんなことを、梓先輩に零したみたい。

本当は、六月四日に、茜さんの傍に行こうと思ったんだって。

六月四日は、茜さんの命日で。

同時に、私に声をかけられてその日は諦めた、とも。

いつも決意したときに通りがかる女の子がいた事も、それが私だった事も。

私のことを邪魔に思っていたけれど、同時にどこかで安心していた、とも。


最後に、梓先輩は、空良が誰かを勧誘するの、初めてだったんだよ、と笑っていた。

頑張れって。

空良は絶対生きてるからって。


梓先輩と別れてから家に帰って。

一人になったら、空良先輩の顔がどうしても見たくなって。

ついさっきも病院で見てきたけど、そうじゃなくて。

曇りでもいい。空良先輩の笑顔が見たくて。

スマホの画像フォルダーを久しぶりに開いたら、涙が溢れた。


一番最近の写真は、この間の日曜日、図書館で自習をしていたらうっかり寝ていた私の写真だった。

あのあと、起きたら空良先輩にからかわれたことを思い出して、空良先輩の声が聞きたくなって。

親指を動かしたら画面が動いたから、あれって思ったら。


コメント欄に、蒼依ちゃん、いつもありがとう、の文字があって。

その日、私が空良先輩の写真を撮り終えたあと。

……「茜空の少女」以来の、空良先輩が撮った写真。

初めて、名前を呼ばれた気がした。

できることなら文字じゃなくて、声が良かった。


先輩。ねえ、先輩……?

どうしたら目を開けてくれますか?

どうしたら声を聴かせてくれますか?

曇りでもいい。

でもできれば晴れの笑顔で、もう一度笑ってほしい。

写真を撮る先輩を見てみたい。

空良先輩は、茜さんのとき、こんな風に祈ってたのかな。

祈ることしかできない自分が嫌だったのかな。

ねえ、先輩、私まだ言えてないんです。

まだ、好きって伝え

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る