第2話 アンデッドだけど美少女なら問題ないよね

幻聴聞こえるとか、疲れてるなオレ。やすも。

エンシェントドラゴンを携帯食にしたオレは、1階層上がった。階層同士は螺旋階段でつながっている。全部悪の大魔術師の趣味だ。モンスターが湧かない場所もある。駆け出しの頃はテント買ってきて休んだものだが、今は道具袋を枕に休めるようになった。大抵のことは、Lv99の心身がはねのけてくれるからな。今はLv95だが。


嫌な夢を見た。寝ていられなくて起きた。跳ね起きると、目があった。大理石で理想のフィギュアを作った猛者がいたが、そんな感じ。ゾッとする美貌だ。まだ少女だが、これで大人になったらどうなるんだ。少女はオレを見て、ニイっと笑う。


「幻聴とかひどくない? せっかく話しかけてあげたのに。あたしが」


道具袋から魔物図鑑を取り出して確認すると、ヴァンパイアの上位種族に該当するっぽい。ていうか、魔物図鑑のその項目がチカチカ光ってる。便利だろ?


「私の種族の確認なんてしなくても、きいてくれば、何でも教えてあげるわ。何がしりたい?」

「ごめんなお嬢ちゃん。オレ、オトナのお姉さんが好きなんだよね。あと、私事で忙しい」

「そんなこと言って、全ての男はマザコンでロリコンだって知ってるもん」

「それは、全ての男に謝った方がいい。遠回しに話して悪かった」

「謝るつもりはないけど、やっとお話しできるのね。飲み物とかほしい? 私はあなたの血が吸いたいな。寝込みを襲ったんだけど、あなたの首に歯が立たなくて」

「噛んだのかよ! あぶねえな。そうじゃなくてオレが言いたいのはだな」

「なあに」

「う・せ・ろ」


上位種族のヴァンパイアは、ぶわっと涙を瞳にためられるだけためると、キッと睨みあげてきた。うん、美人が睨むと色っぽいよな。言わないけど。


「アンデッドの王族の中でも、貴族種である私に、よくそんな無礼なこと言えたわね! ガキだとか貧乳だとか細すぎとか血色悪いとか!!」

「それは言ってない」

変なスイッチ押したらしい。


「傷ついた。超傷ついた。あなた男として恥ずかしくないの。責任とってよね」

「いや、あの、もう関わりたくないんだけど、帰っていいかな」

「騎士道精神とかないの?」

「オレ、戦士だし」

「ここで言い争っても埒が明かないから、ちょっと私の家に来てくれない? お婆ちゃん・お母さん・お姉ちゃん・妹・従姉妹に友達呼ぶから、あなた乙女心を学べるかもしれないわよ」

「控えめに言ってそこは地獄だろ。オレ人間だからヴァンパイアの世界関係ないし」

「そこは心配しないで、血を吸ってあげるから」

「人間でいたいです。もう、オレ、ほんと帰るから」


道具袋を担いで、オレは少女を残してその場を立ち去ろうとした。ついてくる。オレが早足になると向こうも早足になるから、なかなか差が開かない。その内に、しびれを切らしたらしく「あーもう!!」と甲高い声が聞こえると……


周囲に、ワイトやらゾンビやら、半透明なのから腐臭するの、それと少女より明らかに血色悪そうなヴァンパイアまで、色々沸き出した。召喚しやがったのか。これだから貴族種は。

「お前らが、俺たち冒険者の成れの果てなのは知ってる。上位種族・貴族種じゃねえと言葉通じないのも知ってる。迷宮に縛られるな、もう楽になれ『清くあれ』」


辺りに神聖な空気が満ちて、少女が呼び出したモンスター達は、あたたかい光の中へ消えていった。


「あなたの精神力が無くなるまで、今の繰り返したら、あなたの体は私のものよね」


追いついてきた少女が、オレの耳元で囁く。


「だから、そういう悪知恵やめようぜ。今の浄化の魔法ならコスト少ないから、10日くらい続けてもオレ精神力保つよ? あと、ソロだから回復アイテムも持ってる」

「そんなに続けられたら、私が保たないわよ。見た目通り、絶倫なのね」

「不毛なこと繰り返されなくて助かったけど、お前誤解招くようなこと、ちょいちょい混ぜてくるよな。ていうか、なんでオレ? べつにイケメンでもねえし」

「強い男が好き。健康で鍛え上げた肉体が美味しそう。なんかいい匂いする」

「それ食欲だよな」

「はいそうです。血を吸わせて」


オレにつきまとう理由は分かったが、ヴァンパイア化されるのはゴメンだ。


「血を吸わせてくれたら、私を好きにしていいわよ」

「血を座れた段階でお前の支配下だよな?」

「うん」

「断るの当たり前だろ」

「じゃあ、血を吸わせてくれないと、ダンジョンの最下層で、色々たまっちゃったLv99戦士に、乱暴されたって言いふらす。超言いふらす。口コミは怖いんだからね」


ん? こいつ、カンストを過去形で話したぞ、今。

「なあ、なんでそれ知ってる?」

「口コミのこと?」

「Lvの方だな」

「好きな人のことは、何でも知ってるの。情報源を明かすわけないでしょ」

「お前の家に行って、ヴァンパイアの上位種族を根絶やしにしたら教えてくれるか?」

「恋する乙女はそんな言葉で揺るがない。あなたさえ手に入れば、どうぞお好きに」


オレは道具袋から取り出した木の杭の先端を、短剣で削りながらもう一度きいた。

「言葉が通じても、モンスターはモンスターだ。オレはお前に情けをかけるつもりは無い。なぜ、オレのLvについて過去形で話した。話せば命は奪わない。どうする?」

「恋に殉じるってロマンチックじゃない? ロリコンさん」

「お前が綺麗なのは認めるが、ロリコンではないなあ。じゃあ、悪いけどこれでさよならだ」


オレは、少女の胸に木の杭を打ち込んだ。

「痛い、痛い痛い痛い痛い、でもゾクゾクもする。ねえ、こんなアイテムで私を本当に殺せると思ったの?」

「上位種族が面倒なのは知ってる。王子様じゃなくて悪いな」


オレは少女の額に唇をあてた。

「キスとか馬鹿じゃないの」

少女は、くしゃっと顔を歪ませて笑うと、そのままサラサラと灰になる。コロンと、少女の血を吸った木の杭だけがそこに残る。血をふき取って、木の杭はまた道具袋へしまった。


また、あの感覚がオレを襲う。ドレインを食らった感じがした。

おそるおそるステータスを確認すると「Lv93 戦士」になっていた。


「あらあら。せっかく、ヒントと快楽を用意したのに、あなたという人は。でも、誰も見てないと思って、あの子にキスするとか、お仕置きが必要ね」

――また、頭の中に直接声が響いた。


認めよう、これは幻聴じゃない。







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