Lv99だけど、迷宮がなかなか外に出してくれないんだがどうしたらいい?

ハコヤマナシ

第1話 最下層にボスが居ないってどうなの?

「悪の大魔術師は留守にしています。営業時間15:00-20:00」


オレは古びたドアに吊るされた、色あせた看板を二度見した。ホコリもぬぐってみた。今は17時。営業時間内じゃないのか。ていうか営業時間短いよね。悪の大魔術師、自由すぎるだろ。

レベル上げとスキルコンプが楽しくて寄り道してたのは認めるが、こいつを倒すために、全呪文を覚えたLv99の戦士になって、武器装備も伝説級のやつを用意してきた。普通はパーティを組んで潜るダンジョンだが、オレは独りが好きなんだ。盗賊がいないから、罠にひっかかることもあるし、司祭がいないから呪いを解いて貰えない。うっかり死ねば、死体を回収して蘇生もしてもらえない。

それでも、ここに来た。

でも、悪の大魔術師は居ない。

例えば、パン屋さんなら帰るよ? でも、王を呪ったり、姫をからかったり、大魔術師なんだか小悪党なんだかよくわからん、こんな爺さんには、配慮しなくていいよね。

「じゃまするよ」

オレは、ドアを蹴破った。


鍾乳洞に間接照明あててあって、居心地がいい。研究に没頭できそうな書斎だ。もう、帰るのめんどくさいからここに住むかと思った。いや、しないけど。悪の大魔術師、いい趣味してるじゃねえかと、なんか悔しい。オレも王様から褒美を貰ったら、館でも買ってインテリアに凝ってみるかな。

目的の王から盗まれた「指輪」は、悪の大魔術師が携帯してるだろうけど、念のため、「失せ物探し」の呪文を唱えた。デスクの宝石箱がボウッと光った。

あるのかよ?


宝石箱を開けた。罠は無かった。こういう時、盗賊スキルがあると便利なんだが、戦士に転職しなおしているので、けっこう忘れてる。王家代々に伝わる魔法の指輪があった。ボス倒さなくても、これ持ち帰ればオレの仕事は終わりだ。


指輪を触ると、指先から体温が奪われていくような感覚があった。ダメだ、手に取れない。指輪に罠がしかけてあるのか、指輪を手に取るためのアイテムがあるのかわからないが、体に何かしこまれた感じがあった。悔しいが、一度地上に戻って、呪われていないか確認を受けるのが良さそうだ。

ソロで潜る以上は、慎重さは必要だ。それに、ここまで潜れるやつはいないから焦る必要もない。みんなLv上げ苦手だからな。


オレは、悪の大魔術師の部屋から出ると「帰還」の呪文を唱えた。

呪文が発動しない。このエリアに入るために、ドラゴンも巨人も倒したし、炎の呪文も使った。呪文自体が封じられた場所ではないはずだ。

オレは「極大火炎」の術を、悪の大魔術師の部屋に向けて放った。業火自体は発動するものの、例のふざけた看板のあたりに障壁があるらしく、無効化される。

オーケー、「帰還」は使えないわけか。なら、歩いて帰る。


このエリアの番人であるエンシェントドラゴンが、再び召喚される程度時間が過ぎたらしい。見てる。こっち超見てる。上層への道を塞ぐように、きちんと座ってる。

この迷宮では、こいつの経験値が一番高いから、レベル上げに通った。やつら一族の間で、オレの悪評が広まってるのかもしれない。もう経験値はいらない。倒すのもめんどい。めんどいけど、やつはここを守るという制約に縛られているから、倒すしかない。


エンシェントドラゴンは、倒して解体すると、鳥でいうとこのササミみたいな部位があり、わりとうまい。尻尾でドラゴンステーキ作るのも悪くないが、オレはこのエンシェントドラゴン・ササミが好きだ。酸のブレスを浴びると面倒だし、あの前足で踏まれても死ねるので、愛刀で首をはねて無力化した。刀マスターで覚えたクリティカルスキルが効いたようだ。これが効かなければ、延々切り刻むしかなかった。


初見ではパーティ組んでも勝てなかった敵が、今はおやつになってしまうのだから、Lv上げは本当にいい。


携帯食が少なくなっていたから、ササミなど、ドラゴンの体を、「桜チップス」の呪文で燻製し、道具袋に放り込んだ。


緊張感の無い戦闘と携帯食の補充をしていると、ドレインを受けたような悪寒が走った。「索敵」の呪文を使っても周囲に敵はいない。だいいち、このエリアにサッキュバス系統の敵はいない。厄介な悪魔も、ここより上層に住んでいる。


オレは自分のステータスを呼び出した。

「戦士 Lv95」

細かなパラメータも減っている。何だこれ? Lv95からLv99へ上げるのに、どれだけ経験値必要だと思ってるんだ。「まじかよ、うそだろ」と、何度ステータスを呼び出しても、数字は変わらなかった。


「うふふ、イイオトコほどいじめたくなるの。逃げちゃだめ」

艶めかしい声が、オレの頭のなかに響いた。Lvダウンのショックって、幻聴まであるものだったのか。

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