第一章13話:援軍 - Hero appeared -
壁の外に異形の龍が現れたその時、王都でも新たな混乱が起きていた。
―――シェルターへ退避した避難民たちが、一斉に体調不良を訴えたのだ。
それに加えて騎士や兵士達までもが頭を抑え、皆一様に頭痛や吐き気に苛まれている。
そして一人の避難民が気付く。
「おい……魔術が使えねぇぞ……」
その言葉に、皆が一斉に自らが得意とする魔術が発動できるかを確かめようとし始める。
―――魔術。それはこの世界において生活と密接に関係しているものだ。それは当たり前に存在するものであり、使用できないことなど考えられない。
そんな重要なものが使用できないとなれば、混乱が起こるのは当然だ。
そんな市民達の様子を見ながらも、騎士と兵士達は平静に務め、不安を表情に出さないようにしていた。
そんな中も、中央の管制室からは通信術式による状況報告が脳内に響き続けている。
「まずいぞ……、もし一人でも外に出たら、余計に混乱が広がる」
流れてきた通信を聞き、一人の兵士が思わず不安を口にする。
その通信から伝わってきた情報は、それが知られた瞬間、シェルターで暴動が起きてもおかしくないほどの重大なものだ。
―――王都内の魔術機構が、全て機能を停止した。
それはつまり、今この国は全く防衛能力のない丸裸の状態であることを意味する。
ライフライン、移動手段、防衛設備。その全てが完全に沈黙してしまっている。
―――本来、王都の設備を動かす魔力が枯渇するなどということはあり得ない。
というのも、そもそも王都の魔術機構は全てが住民全員から適量抽出された魔力、つまり「税金」によって駆動しているからだ。
月に数度、魔力の徴収が執り行われ、徴収された魔力は王都直轄の地下空間に埋設された巨大な魔力貯蔵庫にプールされる。
それを適宜各施設、各家庭に供給することで、ワルキア王都での生活は成り立っているのだ。
―――だからこそ、今回の現象は正に災害レベルの被害をもたらした。
なんと貯蔵庫にあった魔力が全て、消滅したというのだ。供給源を失った魔導具たちは、たちどころにその機能を失う。
避難民達が多く避難するこのシェルターですら、その信頼の根元であるところの強化術式が機能していない状態なのだ。
そんなことが避難民達に知れ渡ってしまったら最後、大混乱が起こることは火を見るより明らかだ。
そして更に重大な情報。
それは王都内外問わず、魔術適正の高い人間が魔力を突如失い、軒並み昏倒、もしくは戦闘が不可能な状態にまで消耗してしまっているという事実だ。
これが特に深刻である。高い魔術適正を持つということはすなわち、高い戦闘能力を持つ防衛力であることと同義だからだ。マギアメイルへの強い適正を持つ者ほど、消耗し、操縦が不可能な状態にある。
こちらは体内の魔力が枯渇した訳ではないため、自然回復を待てば健康にそこまで被害はない。しかし、一定量の魔力がなければマギアメイルの起動すら行えない。
今のワルキア王都は正に、魔物達の格好の獲物というわけだ。
避難民、そして兵士達までもが不安に頭を苛まれているそんな中、一人の兵士が何かを見つめ、呆然とした顔で呟いた。
「……今、門のほうに何か飛んでかなかったか?」
◇◇◇
王都の臣民たちが皆、不安に頭を抱えているその頃、ワルキア王都東門では更なる脅威が迫っていた。
突如として出現した超弩級魔物、巨大な龍の発した謎の光によってマギアメイルはその殆どが機能停止。
動けなくなったマギアメイル達はその機能を失い、皆一様に大地に倒れ付していた。
「ちょっと!動いてよ「
エルザは叫びながら手に魔力をこめようとする。
しかしその手から一切魔力が発されることはなく、ただ魔力を無理に出そうとした反作用で吐き気や頭痛に襲われるだけだ。
「……ッ」
―――今動けなくてどうするのだ。騎士として、打ち倒さなければならない怪物が目の前にいるのに。
そんな言葉を頭で反芻しながら、無理にでも機体を動かそうとする。
そんな「
一歩。
龍がその巨大な足を城に向けて踏み出したその瞬間。
白い閃光が、その表皮を貫通した。
『―――なるほど、一定範囲の魔力を消滅させるのか、君は』
空けられた風穴の先に、悠然と立つ一騎の鎧から声が発される。
―――龍の足を貫いたのは、超加速した「
「「
エルザが驚愕する。辺りのマギアメイルは一つの例外もなくその機体を地に付しているというのに、何故彼の機体は活動を続けているのかと。
『どうやら君のその手品は、少しでも大気に触れている魔力を消滅させるもののようだけれど、この絶対断絶の防護術式にそれは無意味だ』
そんなエルザの疑問に答えるように、フェルミが種を明かす。
『マギアメイルの停止はただ単に、先程の光が操縦者へ作用したことによるものだ。だが、防護術式は一瞬消えたとしても、僕の魔力が尽きない限りは無限に精製され続ける』
『君の能力による作用が、僕に届くことはない』
そうフェルミは龍に告げながら、手に持つ大槍を標的へと向ける。
それはまさに宣戦布告。これから始まる大捕物への布石だ。
『―――民を護るため、君を討つ』
宣言と共に、「
龍はそれを薙ぎ払うように、尻尾を勢いよく振り回した。その巨体故に、強力な風圧が辺りに吹き荒れる。
少数残っていた魔物たちもそれに巻き込まれ、辺りに吹き飛ばされていった。
横転したマギアメイルも強力な風に吹かれ、門の方角へと飛ばされていく。
その中で一騎のマギアメイルが壁に激突し、そのフレームが果物のようにひしゃげ、潰れた。
そんな風圧を物ともせずに、「
しかしその威力は今一つ発揮されない。
その肉体には少し傷がついた程度で、龍は「
< 本体装甲:軽微損害 >
『……なるほど、先程の攻撃が通ったのは不意討ちだったからか』
そう言いながら、機体の体勢を立て直す。
脚部から魔力を発し、再び龍への攻撃を試みる。
しかし龍の猛攻がそれを阻む。全身の至るところにある目から光線を発し、対空迎撃を行う。
『王都から奪った魔力か……!』
それはフェルミの想像通り、龍が王都から奪い取った魔力によって精製された光線だ。
王都の民全員から集められた魔力を、更に高圧縮して放出される光の帯。
そんなものを喰らえば、如何に「
それを辛うじて回避すると、「
さしものフェルミもこの攻撃は堪えたようで、対抗策を頭で思案する。
フェルミは頭の中で策を練りながらふと、周辺の索敵状況を見た。
―――するとそこには、フェルミすら見たこともない表示がなされていた。
< 動体検知 :
―――その時、王都から何かが、炎を噴き上げながら飛び出した。
『……!』
「あれは……!」
見紛う筈もなかった。
エルザにとって、大切な父が造り上げたもの。
鉄板を張り付けたような無骨な姿。その背中からは炎が放出され、煙を上げながら空を駈ける。
「父さんの……マギアメイル……!」
―――そこにあったのは、暗く染まった空を舞う、歪な鉄機の姿だった。
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