第一章8話:鉄塊 - Iron ingot -



 ―――ワルキアの街を見て歩く。


 その目的を達するには、商業区域を見て回っただけでは足らない。そう考えたフィアーは、工業区域を見に行くことにした。


 商業区域に行く際に前こそ通ったが、こうして道を曲がって足を踏み入れたことはなかった。リアと二人で歩いている時から、とても気になってはいたのだ。


 そうしてフィアーは、リアから聞いたマギアメイルに魔法を付与するという施設―――工教会こうきょうかいが立ち並ぶ区域まで来た。

 各々の工教会の前には宙に浮いた看板が掲げられ、各教会の思い思いのキャッチコピーが表示されている。



 < 跳躍術式を付与するならウチが一番!!!   - MM hover - >


 < 東国伝統の抜刀術式を貴方の魔鎧機に   - 不知火工業 - >


 < 魔鎧機から日用品まで   - クロスインダストリー - >




 工教会の中は事務所のようになっており、術式を定着させる作業を行う場所は奥か地下にあることが見て取れる。


 きっと、受け継いだ秘伝を秘匿することが重要なのだ。門外不出の術を使い、他の工教会としのぎを削る。

 そうして、この都市のマギアメイル製造技術は進化を遂げてきたのだろう。


 

 そんなことを思いながら、フィアーは通りの更に奥へと歩みを進める。

 次に見えてきたのは工場地帯だ。奥を一切見せない工教会とは違い、組み立てられているマギアメイル等が外からでも見て取れた。

 フィアーが立ち止まり、ガレージの中を見てみると、その中にはたくさんのマギアメイルや車が並んでいた。

 

 その中には『運送屋デリバリーマン』の姿もある。どうやらリアの愛機も、この工場で修理されているらしい。




 そして工業区域をぐるっと一通り見て回り、満足したフィアーは、リアの家へと続く道へ戻ろうする。

 すると、昨日と同じようにまた、言い争うような声が聞こえてきた。



 昨日、小さな工場の前で喧嘩をしていた二人だ。

 老人と赤髪の少女。その二人が、また言い争いをしていた。



 「……いやじゃッ!絶対に工教会には持っていかんッ!」

 

 「なんで持ってこうとしないわけ!?それじゃあ術式も使えないじゃない!」


 「だからァ!術式を使う必要は……」



 どうやらまた、あの奥にあるごついマギアメイルのことで喧嘩をしているらしい。

 その様子が気になったフィアーは、立ち聞きを続けていたのだが、


 「おうそこの坊主!お前さんなら分かるよな、コイツの浪漫が!!!」


 急に、話を振られた。


 「……えっと」


 「ほれ!ほれほれこっち来い!そしてワシの最高傑作をとくと見てくれ!」

 

 「ちょっと父さん!関係ない人に絡まないでよ!」


「えぇい、エルザは黙っとれ!」


 老人に肩を捕まれ、工場の中に引き入れられる。

 物凄い力で、抵抗する気も起きない。フィアーはされるがままで、工場の中に運ばれてしまった。

 


 ―――そこにあったのは、鉄の塊だった。


 否、鉄塊ではない。しかしそれに限りなく近いフォルムを持つ異形のマギアメイルだ。


 今まで、フィアーが目にしてきたマギアメイルは、シンプル、かつスマートなデザインが特徴的だった。

 しかしこの機体はその対極。分厚い装甲に身を包まれ、脚部が肥大化している。

 背中には何か大きなユニットが積まれており、そこから胴体、そこを通じて四肢へと、パイプが繋がっている。

 以前見たときは不恰好だという感想が浮かんだ。


 ―――しかし、それは過去のものだ。


 こうして近くまで来てその威圧感にあてられると、心が騒ぐ。

 


 「分かるだろォ?坊主!この男の浪漫が!」



 「ごめんなさい……うちの父さんが馬鹿で……こんなオッサンに話合わせなくていいからね?」


 赤髪の―――エルザと呼ばれた少女がこちらを気遣うような言葉を発していたが、頭に入らない。


 頭の中は他のことでいっぱいだ。


 そう、これは一目惚れ。


 気付くとフィアーは、この鋼鉄のマギアメイルへの感想をこぼしていた。





 「かっこ……いい……!!!」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る