まりもの異世界談

@hirasan

第1話

朝。カーテンがほどよい風で揺れ、日光が小さな6畳の部屋を明るく照らす。部屋の真ん中、毛布にくるまれた物体は日光を受けてもぞもぞと動き出す。そして、しばらくすると髪の短い少女の顔が毛布の中から現れた。

「え、、、。もうこんな時間っ?!」

時計を一瞥した少女は飛び上がって洋服だんすを漁り、お決まりの白いパーカーと黒いジャージのズボンを取り出してそれらを慌ただしく身につけると、机の上に置いてあった食パンをくわえて、猛スピードで家を出る。早朝からしばらく時間がたった今では蝉の鳴き声が四方八方から少女に降りかかる。そんな蝉の鳴き声と夏の暑苦しい空気を掻き分けるように少女は住宅街を地元の名門高校のほうへと走り抜けていく。いつも通りの家々。いつも通りの公園。いつも通りの......そこで、少女の思考回路は止まってしまった。足が、体が、宙に浮いている。

「え、、、?」

考える間もなく少女は工事中のまま放置されていたマンホールの底へと落ちていく。

「ヤバい!!死ぬ死ぬ死ぬ!誰か助けt......」

その刹那、少女は頭に走った激痛に言葉を失う。痛みに驚いた少女の脳が強制シャットダウンされ、少女はそのまま完全に動かなくなってしまった。



.........どのくらい意識を失っていたのかな?目をさますとそこには、不思議そうにこっちを見つめる、ツインテールの女の子がいた。この辺では見かけないピンク色という派手な髪の色に、青い瞳。どこぞのギャルだよと突っ込みたくなるその容姿の女の子は私が目覚めたのに気づくと驚いたように後退し、その後心配そうに私の顔をのぞき込んできた。

「えっ.........とぉ....。」

私何で気絶してたんだっけ。あぁ、確か学校行く途中にマンホールに落ちて......って、いや、もう死ぬかと思ったけど何か生きてるっぽいし.......とりあえず........良かった、のかな?ほっとして前を見ると、戸惑った様子のツインテ女子の顔が目に入る。ヤバいっ!慌てて女の子に話しかける。

「あっ!ごめんなさいっ!色々考えてて......えっと、ここは病院....じゃないですよね。」

すると、ツインテ女子は、おろおろしながら

「えっとぉ.......療養するならザナドゥ村の宿屋で.....。」

と呟く。え......。ザ....ザナドゥ?

「えっと、失礼ですけどもしかして、ザナドゥ村って言いました?」

マンホールに落ちた衝撃で私の耳がおかしくなってしまったのか。否、寧ろそうであってほしい頼む。はい。とか言わないで....。

心を満たしても満たしきれないほどの不安を抱えながら女の子の返答を待つ。そして次の瞬間、見事に期待は裏切られた。 

「は.....はい。そうですよ?ザナドゥ村は私たちの国では一番栄えている村なのです。ザナドゥ村をお知りでないということは、田舎の村からお越しになった方ですか?」

と、女の子はさりげなくザナドゥ村とやらの

自慢をしてから出身はどこか、と聞いてくる。

「出身は桜町ですけど.......日本にザナドゥ村ってありましたっけ?」

いや、ないでしょ、ぜったい。日本にそんな村があったら、私は初の発見者として有名人になれるのではなかろうか。女の子をみると、不思議そうに首を傾げている。

「ニホン.....とはどこの国でしょうか......?あなたは、この国の方ではないのですか?」

そう言い切った女の子は目を輝かせながら、私の顔をのぞき込み、全身をなめるようにじろじろとみる。何なんだ、この子は。でも、冷静に周りを眺めてみると、どうやら見たこともない鬱蒼とした森の中にいるようだ。頭を打ったせいで変な夢をみているのかもしれない。とりあえずこの子に助けを求めた方がいいかもしれない。

「あの、すみません。私、何が原因か分からないんですけど別の世界から飛ばされてしまったみたいで......元の世界にもどりたいんですけど.....。」

女の子にさりげなく協力を求めるが、どうやらあまり話を聞いてなかったようで

「やはり、他の国からいらっしゃった方でしたのね。私嬉しいですわ。私、アミュネットという者です。アミュと呼んでくださいね。私、外の国について、日々研究していますの。初めて外から来た人間を見ましたわ。私の研究に是非ご協力ください!」

立て続けに自分の言いたいことを言い放ったであろうアミュという女の子は鼻歌を歌いながら私の腕を強引に引っ張る。すごい力!抵抗できないっ!普通の女の子であれば考えられないほど未知の力だ。やっぱりここは私のしらない 異世界 というやつなのか.....?だとすれば、なおさら.....

「あのー、アミュちゃん....?私、元の世界に帰りたいんだけど.....。い、ま、す、ぐ!」

「.......あっ!あなたのお名前を伺ってませんでしたわね!なんてお呼びすればよろしいかしら。」

.......どうやらアミュちゃんは自分に対して都合の悪いことは聞こえない人らしい。まあ、この子の研究に付き合って満足してもらえれば、帰る方法も考えてくれるかな....?

「私、まりもです。よろしくね。」

軽く名乗ると、アミュちゃんは本当に嬉しそうに微笑んで、

「こちらこそ、よろしくお願いしますわ。」と半ば叫ぶように大声で言った。何だか不安だが、まあ、なんとかなるだろうか。私の腕を強く掴む少し頼りないけど希望に溢れた手を見て、私は少しずつ不安が払拭されていくのを感じていた。




ー続くー

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