ウダイプル 湖水に浮かぶホテル/獣たちの雄叫び

 砂漠の次は一転、水の都ウダイプルである。ここには大きな湖があってその中心に威厳のある立派なホテルが浮かんでいる。まるでリアルドラゴンクエストな光景は一見の価値がある。お金があれば泊まってみたいと思うが僕は貧乏なので無理である。歴史ある高級ホテルで一泊するのに安い部屋でも当時の日本円で2・3万円はしたはずだ。(ルピーで記憶していないのはプリンスとかのシティホテルとほぼ同じ金額だなと思考したから)


 町並みの印象はアジメールに似て避暑地を思わせる。実際に木陰に入ると涼しい。僕はヤッケを1枚持っていたので早速羽織る。


 湖から歩いていける距離で、よさげなホテルがあったのでフロントで下から二番目くらいの部屋を見せて貰う。金額はまたも50ルピーだ。部屋はこれまでに泊まったホテルで一番広く綺麗だ。そしてシャワーをチェックする。お湯が出る! びっくりである。インドに来て初お湯シャワーだ。これまでは全部水のみだったし、半分はちょろちょろとしか出なかった。キャンセルした中には全く水が出ないホテルもあった。(ホテルに入ったら契約する前に部屋をチェックする。広さはどうでもよいが、シャワーとトイレと布団の汚れ具合の確認は必須である)僕は大満足でフロントのおじさんと契約する。


 ウダイプルには湖のホテル以外で僕の心を揺さぶる観光スポットはない。さて、どうやって過ごそうかしら。観光局でパンフを眺めながら迷っているとある記事に目が止まる。動物園である。僕は動物園が大好きだ。つきあいたいなと思った女の子との初デートはいつも動物園である。会話もたくさんできるし、動物は見ていて飽きないので、初デートでお互いに相性を探るのに持って来いなのだ。つきあい始めてからも半年に1回は行く。おかげで関東の動物園はだいたい制覇した。

よし、今日は動物園に行こう。インドの動物園はどんなかしら?


 結論から言えばいたって普通の動物園である。大きさも中規模で上野動物園の3分の1くらい。特別めずらしい動物もいない。そして日本中の動物園がそうであるように、ほとんどの動物は暑さにへばっているのか寝そべっている。僕は順繰りに動物を眺め歩いた。半分ほど動物を堪能したところで猛獣コーナーがある。虎が寝そべっている。僕は虎の前で立ち止まる。すると虎は突然立ち上がり、僕に向かって襲い掛かるかのごとく吠えだした。吠えながらも檻際までやってきて僕を威嚇している。それに触発されたのか隣のヒョウやら少し向うのライオン、インパラなども吠えだした。既に通り過ぎたチンパンジーやら象やらも雄叫びをあげている。もの凄い声だ。今では動物園中が吠えている。僕の姿が見える動物は全て僕を威嚇している。最初は、「虎が俺に向かって吠えているぞ、おもしれえ」なんて思っていたが、本気で恐ろしくなってくる。傍にいた子供も最初は喜んでいたが、そのうちびびりだして、母親が子供の手を繋いで逃げるように移動していった。僕も動物が暴動を起こすのではと恐怖して急いで動物園を出た。


 きっと僕のことをインド人と違う匂いを発する異質の者と判断し、動物達も混乱したのだろう。正直怖かった。


※こんな話はテレビでも見たことがない。まるで自分が遊星からの物体Xになって敏感な犬に吠えられているのではないかと錯覚した。


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