砂漠紀行
僕はここに来るまで幾度の困難に打ち勝ち、強敵を捻じ伏せ、藁をも掴む思いで生き抜いてきた。数ある強敵(とも)が僕の頭をかすめる。デリーの絨毯戦争をサヴァイバルし、アーグラの宝石密売商と神経すり減らす折衝をまとめ、象さんを手籠めにし、インド人をマジックで翻弄し、警官と息詰まる攻防を繰り広げ、そして時には甘いロマンスに身を委ね、少年と心の交流を図り、数十回ピュルってこの身を成長させてきた。それもこれも砂漠という最終目標に達するための布石だ。
いざ、ゆかん。砂漠が俺を呼んでいる。
さて、スタート地点に時間に合わせて到着すると発着所にラクダ2匹とまっくろいお兄さんが待ち受けている。彼からラクダの乗り方を伝授されいざ出発である。
スタートして間もなく僕は不安になる。眼前に広がるは砂漠ではなく荒野である。スタート間もないといっても辺りはさほど大きくない岩山があるだけで、遥か彼方まで見渡せる。そして遥か彼方まで荒野である。一部砂だらけの土地も見えるがせいぜい小学校の校庭くらいの大きさしかない。マンガでは蜂須賀さんが民族服っぽいのを身にまとい砂塵を衣服で押さえつつ砂漠に佇む回想シーンとともに「砂漠が見たかった」と呟くのである。(しかし20年以上前に読んだマンガをよく覚えているなと自分でも感心する)僕はこのシーンにイカレてしまった。その現場はどこ? 結論から言うとインドのタール砂漠には砂丘がいくつかあるが、どこまでいっても砂というような場所はない。僕はマンガに騙されたのである。蜂須賀さんの民族服もうそっぱちだった。インドの女性はサリーを身に纏ってとてもチャーミングであるが、男性の民族服はてれてれのよれよれしたYシャツ(色は水色と灰色の中間色)みたいなクルターで格好悪いことこの上ない。蜂須賀さんはアラブ人の民族服とサリーをミックスしたようなイカシた服を着ていた。僕は大きく大きく落胆した。おい!太陽! もっと頑張って砂漠化せんかい!(タール砂漠の民、ごめんなさい)
さて僕の気持もおかまいなしに僕の乗るラクダ2号はてくてくと歩いてゆく。前方のガイドとラクダ1号が先導する。ラクダの歩く姿を眺めて、なにかに似ているなと思い巡らす。そうか、スターウォーズのスノーウォーカーだ。それまでスノーウォーカーのモデルは象だとばかり思っていたが、足首の動きや首の動きがラクダと瓜二つだ。アーグラで見た景色もそうだけど、ルーカスはきっとインド経験者に違いない。SWマニアの僕は少し機嫌が良くなった。
料理はガイドが作ってくれる。朝はフルーツ、昼はチャイとクッキーくらいで、夕方に簡単な料理、チャパティ(ナンの味をさらに無くしたようなもの、うまくない)と何かのスープ(味無し)とチャイ(これも他の土地に比べて薄かった気がする)を作ってくれる。日が暮れると動きようがないので平な場所で寝袋を出して野宿である。もの凄く寒い。だが空は広く、夜空に幾千の星がまたたきとても感動的だ。なんだか砂漠というよりもモンゴルに来てしまったような気がする。
途中、民家に寄ったり、砂丘に寄ったりして、砂漠ツアーは進行する。砂丘に来るとやっぱりラクダと砂はマッチするなと感心する。ラクダの向こうに砂丘と夕焼けが見える。ラクダのシルエットは幻想的でさへある。美しい情景だ。
こんな感じで5日間、砂漠クルージングを堪能した。はっきり言って途中で飽きた。暑いし寒いし飯はまずいし2泊くらいで十分だったと言える。
※やっぱり砂漠が見たければサハラ砂漠の方が満足できるのだろう。でもこのキャメルツアーも経験して損はない。旅行期間に余裕のある方はどうぞ。
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