ジョドプール 4 民家へ泊まろう!
少年の家はブルーシティの一角にあり、もちろん屋根も壁もインディゴブルー一色である。敷地も大きく、日本の小金持ちの持ち家といったところか。但し家の中は薄暗く、調度品が豪華という印象はない。日本の田舎にある古くて広い家といった感じだ。それでもインド全体で考えれば相当上流階級にあたるのだろう。(調べて判ったことだが、ブルーシティの一角に住んでいるというのは上流階級の証なのだそうだ)
家にお邪魔させてもらって昼御飯の時間まで間があったので、僕は少年とじゃれて遊んでいた。日本の大人なら誰でもやってあげるようなこと、子供に簡単な柔道や相撲の技を掛けて転ばせてあげた。さば折りとか外掛けとか内股とか。もちろん痛い思いをさせないように、子供の両手を持ちながら足を引っ掛けてバランスを崩してそっと転ばせる。これが大好評でものすごく喜んでいた。次々と技を掛けてくれとせがまれる。どうやらインドではそういう習慣がないらしい。力無しで簡単に転ばされるのが不思議なのだろう。中学生の兄貴までもがせがんでくる。僕に柔道の経験は無い。体育でさへやらなかった。オリンピックで見るくらいである。だが日本で生まれ育ったというだけで、柔道と接点のない人々からすればこの身にいくらか染みついているのだろう。兄弟は僕をJUDO MASTERと間違えて尊敬の眼差しで見ていた。
さて食事である。旦那さんも家に戻ってきて家族で食事だ。旦那さんは物静かな人で僕達に挨拶しただけで話かけてきたりしない。奥さんが異国の客のために奮ったのかおかずがたくさんある。もちろんカレーもある。当然だけれどおいしいとはお世辞にも言えない。僕は日本でときおりインド料理店を利用するが、そのレベルのおいしさをインド国内で求めるには超高級ホテルのレストランでなければ無理であろう。インドの食文化は全体的に低いと言わざるを得ない。食べ物は「とてもからい物」か「とても甘い物」か「全く味のしない物」しかない。インドに永く居ると厭気が刺して途中から中華ばかり食べていた。(中華は世界中どこにでもある。インド定食屋でも探せばメニューに有る)
あと飲み物がないのがつらかった。グラスに水をついでくれたのだが、さすがに飲む気になれない。フランスギャルも手をつけていない。インド家族はがぶがぶ飲んでいる。
食事をしながら僕は次の作戦を練っている。まずはハシシをエサにして同じホテルに泊まらないとな、それから二人でキメて、ハイになって、やっぱりフランス人だから甘い言葉もなくちゃな。「アイル、ティーチュー、ジャパニーズウェイ」かな。ぐへへ。
食後に礼を言っておいとましようとすると、少年からうちに泊まっていきなよと誘われる。フランスギャルは断っている。ここですがおはジレンマに立たされる。可能性は低いがフランスギャルとセックスドラッグロックンロールな一夜が待っているかもしれない。だが民家に泊まるなんて経験はそうそうできないだろう。悩んだ末、僕はフランスギャルを振って少年を選んだ。
彼女が出て行く時に僕と少年も外にでた。家から少し離れた処で彼女を路地に呼び出してハシシをコイン一つ分手に握らせた。彼女の顔が明るくなる。「いいの?」「いいよ」「メルシー」「ウエルカム」
別れのキスかハグを期待したが何もしてくれなかった。シャイなやつめ。
それから夕方まで少年と近くを散策して家に戻った。
夜も兄弟と柔道をして遊んで過ごしたのだが、暴れたためものすごく喉が渇いた。少年が水を奨める。水は薄暗い台所に大きな甕(高さ150センチ、口の大きさが直径70センチくらい)があってその中に水が溜まっている。少年は台に上り柄杓で掬いあげてごくごく飲んでいる。
こいつらがこれだけ飲んでも問題ないのだから大丈夫かな? 俺だってインドに来て早や2週間、それなりの免疫はできているだろう。何より喉が渇いて苦しい。僕は少年を真似て水を飲んだ。1杯飲んだら止まらなくて、5杯くらい飲んだと思う。
少年とその夜、住所の交換をした。手紙を書く約束をして、日本に遊びに来たら泊めてあげるよと伝えた。
やはり子供なので就寝時間は早かった。21時くらいには床についたと思う。これだったら泊まらなくても良かったかなとも思うが、まあいい記念にはなった。
翌朝、奥さんに食事と1泊の礼を述べ、子供の登校時間に合わせて一緒に家を出た。
※実はインド滞在中に少年の住所を書いた紙きれを無くしてしまった。彼からも手紙は来なかった。彼も今は30半ば。日本人観光客のことを覚えているだろうか?
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