ジョドプール 2 フランスギャルとの邂逅

 何人ものインド人に道を尋ねやっとジョドプール城に到着する。ジョドプール城も高台にあり城下が見渡せる。町はブルーシティの名にふさわしく、城下町の家並みが屋根から壁まで同色で統一されている。インディゴブルー一色の町並みはとても美しい。インドではなく地中海沿岸のどこかの国にいるみたいだ。

 僕が入り口で城下を見降ろし佇んでいると、少年が城内の案内や説明をするよと営業してくる。ぺらぺらと英語で説明されてもほとんど理解できないので迷っていたら、その少年が傍で同じ様に景色に見入っていた女性に声を掛けた。「二人一緒で10ルピーでいいよ、どう?」僕と彼女は目を合わせ「頼もうかしら」「(ぜひ)頼もう」と少年に答えた。

 これまで日本人以外の観光客と話したのは電車の中で合ったネパール人だけであった。それがいきなり白人の女性(25歳くらいで身長は僕と同じくらい。髪はセミロングで煤けた金髪、とびきり美人ではないが化粧無しでこれくらいなら十分魅力的な部類だ)と知り合えるチャンスを持った。やるな少年、お前実は背中に羽根を隠しているんじゃないか? なんて考えている最中に、少年は城内に展示されている物品の云われや伝説などを説明してくれている。案の定半分も理解できない。彼女は度々少年に疑問を投げ、その合間に僕に話かけてくる。彼女の国籍はフランスだった。フランスギャル! ポイントアップである。背中に羽根が生えている少年は、弓と矢まで持ち出した。うまくいったらチップを弾んでやるぞ、と心の中で約束する。

 一通り城内を案内された後、僕は彼女の予定を聞いた。特に決まってないとの答えだったのでランチを誘った。彼女は快くOKの返事をくれた。喜びメーターの針がレッドゾーンまで振り切った。単に予定が無かったからではない、旅行者にとって情報交換は多いほど良いからという理由ではない、一人より二人の方が異国の地で安全だからでもない、俺を気にいってくれたんじゃあ! と勝手に解釈して盛り上がる。

 

 それから二人はブルーシティーの美しい町並みを仲良く手を取り合いながら歩き、そしてお互いの生い立ちを語り、愛を育んでいった。(妄想終わり)

 (実話始まり)歩きながらお互いに質問しあう。彼女の出身地は聞いたことがなく忘れてしまった。とりあえずパリでないことは確かだ(さすがにパリなら忘れない)僕は当時フランスといったらプラティニ(サッカー選手)とフランスギャル(夢見るシャンソン人形)しか思いつかなかったので二人をどう思うと尋ねた。彼女はサッカーに興味はないらしくプラティニの名前は聞いたことある程度だったし、フランスギャルの方も昔のアイドル歌手という認識しかなかった。至極残念だ。プラティニと言えば歴史に名を残す名プレイヤーなのに。フランスギャルといえばマドンナと双璧を成す史上最強のポップイコンと呼んでも過言でないのに。かといって僕がその評価を力説しても白い目で見られるだけだろうし、何より説明するだけの会話力がない。

 向うからも年齢やら日本のことやらを質問されるのだが、会話するたびに僕は「パードンミー?」「パードンミー?」を繰り返すので段々会話が萎んでくる。長々とした質問にはお手上げで僕はペコちゃんのように首を振るしかない。そのうち彼女も僕のおつむ加減を把握してきたのか、段々と白けた雰囲気が漂ってきた。

 やばい。彼女は俺を会話もできない馬鹿だと思い始めている。どうすればいい? ウィットに富んだセリフは無理としてもせめて日常会話くらいすらすらと喋れなくてはダメだ。といっても急には喋れない。ここはもう最後の手段だ。一か八かニヒルでミステリアスな東洋人を演じるしかない! ここが日本で合コンだったら成功率0%の作戦だがここはインドで相手はフランス人だ。すがおはクールで素敵♥なんて可能性もあるかもしれない。このように思考して僕は賭けにでた。

 作戦執行後、それまで二人の間の距離が50センチくらいだったのに1メートルに広がった。はぁー。orz やっぱり無謀な賭けだったかと諦めかけた刹那、彼女が素晴らしい話題を提供してきた。

「ドラッグやったことある?」

 オーマイゴッド、天照大神よ、仏陀よ、アラーよ、シヴァ神よ、いやアーグラの売人よ、ありがとう。

「俺、今ハシシ持ってるよ」僕は一応作戦続行を決め、すかした顔で答えた。彼女の顔が見るからに輝きだした。と同時に僕の喜びメーターも再度レッドゾーンに突入した。

「一緒にやる?」

 しかし僕の口説き文句は新たに出現した敵に阻まれた。


つづく


※すがおとフランスギャルのロマンスの行方は? こうご期待! 


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