ジョドプール 1 ジョドプール城までの道程を歩きながら徒然と考える

 アジメールには1泊しかしなかった。特に観光スポットもないので二日目は近所を散策して過ごした。


 次の目的地はジョドプールである。地球の歩き方によればブルーシティと呼ばれ町並みが青で統一され美しい都なのだそうだ。と言われてもピンクシティの例があるので信じ難い。インドの美意識は毒キノコのような禍々しさがあり、風流とはほど遠いというのがこれまでの印象だ。


 到着してまず駅からほどないところにあるジョドプール城に観光に行くことにする。歩いて1時間ほどのところである。


徒然話その1

 僕は節約も兼ねて1時間くらいの距離だったら徒歩で移動していた。リクシャーワーラーと不毛な交渉をするのが疲れるからもある。

 ところで、インド人に道を尋ね、後どれくらい歩けば良いかという質問は無意味である。答えは「ノープロブレム、スーン」か「ノープロブレム、ジャスト5ミニッツ」のどちらかしかないからだ。僕はこれまでに10回以上「あと少しだから」という答えを聞いて30分以上歩かされていた。その時も、駅から歩いて30分くらいして道を間違えたのでないかと不安になり、なるべく人のよさそうなインド人に道を尋ねた。インド人は地図など書いてくれない。方向を指さしてあと5分である。あと5分なら見えてもよさそうだが影の形も無い。10分歩くとまた間違えてしまったのではないか、あるいは答えてくれたインド人がてきとうなことを教えたのではないかと再度不安になる。それでまた別の人に道を尋ねる。二人目のおじさんが方向を指さす、うん、間違っていない。「あと5分」、えーまた5分? さっきから1分も近づいていないの? この繰り返しである。一つの目的地に到着するまで5回はインド人に尋ねていたと思う。

 結果から言えば道を尋ねて嘘を教えられたことは一度もない。ただ時間の説明が間違っているだけだ。インド人は時間に関する感覚が我々と違うのだろうと最初考えた。でも何度もあと5分と聞いているうちに別の理由に思い立った。彼らは僕を勇気づけようとしているのだ。あと30分と聞けばげんなりしてしまうだろう、もう少しだからがんばれ、と。僕だって自分の計算よりもわざと大きな見積りや小さな見積もりを相手に伝える場合がある。インド人は極端なだけだ。


徒然話その2

 僕はインドでフィリーズ(メジャリーグ、臙脂色にPのマーク)のキャップを被っていた。日本人の男の子なら誰でもそうだが気分によってツバを目深にしたり、後ろ向きに被ったりしてバリエーションを変える。これがインド人には理解できないみたいだ。後ろ向きにしていると必ず「向きが違うぞ」と指摘してくる。あまりに言われるので最初は宗教的な理由(後ろ向きは地獄に通じるみたいな教え)があるのかしらと思っていたがどうも違う。日本人はキャップの被り方もしらないのか、しょうがねぇな、教えてやるよ、という顔だ。僕が向きを直すと、「よしよし、これでお前も一つ利口になったな、俺のおかげだぞ」と満足気な頬笑みを向けてくる。


徒然話その3

 また帽子を後ろ向きにして被っていると、頭上から「おーい」と声がする。見上げると大工さん?が造りかけの壁の淵に立ちながら、自分の頭を指さしている。例によって帽子の向きを指摘しているのだろう。僕は向きを直す。彼は満足そうに微笑んで「それでOK」とうなずく。

 インドの大工仕事ってどんな感じなのだろうと小さな興味が湧いたので5分ほど見学する。インド人は建て壊す前の家の壁を上に座りながらノミとトンカチで「カンカンカン」と削っている。5分ほど眺めてダメダコリャと今は亡き長さんのセリフが頭を支配する。要領が悪すぎる。ブルドーザーが無かったとしても、それに類する物でまず更地にしてから始めるべきだろう。ジョドプールにあるほとんどの家は石でできているのでノミとトンカチで壊すのに半年くらいかかるはずだ。その5分の見学で、インドが発展するのにあと100年は必要だな、と結論に達した。


※20年ほど前にBRICs(ブリックス)という経済用語を耳にするようになった。当時、経済発展が著しい4つの新興国(ブラジル・ロシア・インド・中国)を指しての名称だ。その言葉を耳にしたとき、あのインドが発展しているなんて信じられないと正直思った。

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