インド鉄道事情 屋根の民は何処へ

 デリーには確か4日滞在したと思う。まだ寄っていない有名な観光スポットもあったが、デリーの喧騒に疲れ果て、もういいや、次に行こうという気持ちになったのである。決して逃げ出したわけではないと言っておこう。鈴木の予定に合わせたに過ぎないと言いはろう。(鈴木とアーグラまで一緒に行くことにした。次の目的地も一緒だし、何より一人で行動することが恐ろしかった)

 さて次なる目的地は当然アーグラである。デリーの次にアーグラに行かないのは、鎌倉に行って鶴岡八幡宮だけ見て大仏を見ないようなものである。複数回のインド経験者ならともかく、初めてのインドではデリー→アーグラがデフォなのであります。

一体アーグラには何があるのか? はい。かの有名なタージマハールがあるのです。


 アーグラの話は次回にするとして、今回は鉄道事情がテーマです。

 インド国内で中長距離の移動といえばもっぱら鉄道が利用され想像以上に整備されている。総延長は62000kmを超えて世界第5位であり、アジアで最初の鉄道も1853年にボンベイ-ターネー間で開業している。これは大英帝国が綿花・石炭・紅茶の輸送を図るためだった。(Wiki調べ)今ではデリー・コルカタに地下鉄もあるらしい。驚きである。


 アーグラまで地図では隣町だが距離は相当有る。確か15時頃出発して到着は21時頃だった記憶がある。一番安い長距離列車を利用したから余計に長時間だったのかもしれない。列車は汽車である。そして恐ろしく長い。たぶん30両くらいある。駅のホームから自分の席がある車両に乗り込むだけでも大変だ。

 それからデリーの駅で我々のパーティに仲間が一人加わった(男・学生・同い年・眼鏡・いじめられっこ風)。魔法使いタイプである。「ボーダー」の東大生木村に似ている。この男は見かけによらず積極的で電車の中でもインド人やネパール人にブロークン英語(ものすごいカタカナっぷり、僕なら恥ずかしくてごにょごにょしてしまう)で話かけていた。木村仮名曰く、ヘタな発音を小さな声でするよりも、はっきりとカタカナで喋った方がコミュニケーションはとれるらしい。英会話学校で教わったそうだ。

 列車の旅で一番驚くのは屋根の上をみっしりとインド人が占領していることである。1両毎に30人くらいいたと思う。皆、風呂敷で包んだ大きな荷物を側に置いて屋根の上に座っている。当然キセルなのだろうけど、駅員は何も言わない。多すぎて対処できないのかもしれない。

 発車時間がきて煙をもくもくと炊き上げ汽車は出発する。さほど予定よりも遅れなかったと思う。インド内の移動はだいたい夜行列車を利用したのだが、デリー-アーグラ間は夕方から夜にかけて移動したので車窓を楽しむことができた。農場や田圃などの田舎風景や野良牛が佇む様を眺めるのは楽しかった。夕焼けに染まるインドの田園風景はとても美しく、僕の中で富士山の頂上で見た御来光に匹敵する荘厳さがあった。この時と次のアーグラで見た景色が僕のインドベスト眺望である。

 アーグラまでは直行ではなく数回途中駅に止まる。各駅で30分ほど停車する。止まる度にチャイ(最初は甘過ぎて抵抗があったがインドの気候に合っているのか不思議と飲みたくなる。1日に2回は飲んでいたと思う)を求めて駅のホームに出るが、相変わらず屋根の上はインド人だらけである。記念に僕も乗ってみようかしらなんて考えもするが、僕の中の理性君が押しとどめる。

 一度長いトンネルがあった。汽車なので煙が車内に入らないよう窓を閉める。上はどうなっているのだろうと心配する。煙でごほごほと咳込んでいるのではないだろうか。次の駅に着いた時、ホームに出て見上げてみた。ええええええええ? 誰もいない。どこに消えちゃったの? まさかトンネルの入り口でカンナに削られるかつおぶしのようにみんな落ちてしまったのか? 前の駅では確かにいたはずだ。だって駅毎に降りる人もいれば新たに乗車?する人がいたんだもの。僕と鈴木はその謎でしばらく頭を悩ましていた。


 アーグラに到着し、夜も遅いのでその日は駅中に有るホテルを利用する。大きな駅には大抵国営のホテルが駅内にある。インド人が長距離移動の際に利用するようなホテルである。もちろんぼろっちい。一泊50ルピーくらいだったと記憶する。


※ほんの数年前から法律で禁止されるようになったようだ。列車から落ちたり、感電したりして死ぬ人が後を絶たないことに政府が危惧したためとのこと。


※下記の動画をぜひご覧ください。面白いですよ。

https://youtu.be/YOYN9qNXmAw

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