インドで聞いた怖い話その1 頼むから殺してくれ
インターネットなどない時代、情報はどこから入手すべきか? タウン情報などは地球の歩き方と町毎にある観光局で貰えるパンフレットに頼ることになる。それらは観光スポット巡りとしては役に立つが、サヴァイバルの知恵にはならない。一番情報として価値あるのはやはり口こみである。どこそこに行ったらこんな手口に気をつけろ、あそこは何々が安くていいよ、あそこは何ホテルがいいよと情報交換をするのである。口こみの重要性に気づいてからは日本人を見かけると積極的に声をかけるようになった。(当時は東洋人のバックパッカーといえば日本人しかいなかった。一応日本人ですかと最初に質問するが違ったことは一度もない。でもインドと中国は仲悪いから今でも状況はさほど変わらないのかも)
もちろん口こみの常で自分の経験による情報のみならず、仕入れた情報も飛び交う。いわゆる噂話である。今考えると中には都市伝説みたいに怪しい話もある。でも当時その場にいた僕にとっては疑いようのない真実として聞こえた。
そして噂話にはある共通の枕詞がある。「半年くらい前の話なんだけど」。そんな出だしで始まる噂話をいくつか紹介します。
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二人の日本人男性がゴアを訪れる。ゴアはボンベイ近くにあるリゾートで我々がイメージするインドとは全然違う。キリスト教徒がほとんどで観光に来た欧米人が闊歩するセックス・ドラッグ・ロックンロールな場所である。インド政府は表向きドラッグを違法としているが、入手するのはさほど難しくない。しかしゴアに限って言えば難しくないというレベルではなく、全ての観光客がそれ目的で訪れるような場所なのである。僕のイメージでは80年代前半の新島である(こんな喩えで伝わるだろうか? 不安だ)。観光が最大事業な土地なので警察もよほどおおっぴら(例えば街中)でキメてない限り観光客のドラッグを黙認している。
さて一人の馬鹿な日本人がドラッグで警察に捕まる。しかもガンジャだかハシシだかを大量に持ち歩いていた。それは個人の使用量ではなかったらしい。密輸(もともと存在自体が違法なものを持ち去ることも密輸と言うのかしら?)と判断されたのだろう。ワイロも利かず逮捕され懲役をくらう。
当時のインド刑務所は食事もろくなものはなく、足には鉄球を繋げられ、排便も隅でして自分で片づけるような極悪な生活環境だと聞く。懲役期間は10年ほど(日本は世界的に見てもドラッグ使用に関して罰則が緩い国である。世界標準はわからないけど特におどろく期間ではない)。家族が面会に行くたび、彼は目に見えてやつれていったそうだ。2年後にゴアで一緒だった友人が面会に訪れる。(この時が半年前、伝聞を信じれば90年1月頃になる)骨と皮だけになった身体で、彼は涙ながらに頼むから殺してくれと友人に懇願したそうだ。
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その話を始めて聞いた時アラン・パーカーの「ミッドナイト・エクスプレス」を思いだした。映画はトルコが舞台だけれどストーリーや設定が似ている。だけどリアリティはこの噂話の方が勝っていると思った。確実にトルコよりインドの刑務所の方が人権に配慮などしていないはずだ。
この話はインド滞在中に3回聞いた。それだけ蔓延していた証左だろう。
※今でも「半年くらい前の話」として日本人旅行者のあいだで流通しているのかも。
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