デリー 2 絨毯戦争

特に時差ボケもなく夜はぐっすり眠れ、朝9時頃目を覚ます。日頃の不規則な生活習慣の賜物であろう。宿泊代金は二日分支払をしたので今日もリュックを置いて町へ繰り出す。

欧米人の旅行客をよく見かけるが、日本人はあまり見かけない。きっと観光スポットにいるのだろう。山の手デリーの方でお土産巡りのいかにもツアー客な団体を見かけた。けっ、ブルジョア観光客め、俺は人生の深淵に触れる旅に来てるんだぞと逆エリート意識で一瞥する。この頃はまだインドに到着して間もないので変に肩意地を張って日本人を見かけても敬遠していた。逆に話し掛けられもしなかったのでインド出発点であるデリーでは皆同じ気持ちでいるのかもしれない。


 ぶらぶら歩いているとまたしてもインド人が近づいてくる。バイクで観光案内してくれるという。どうせまたぼるのだろうと警戒しているとなんと無料と言うではないか。「ノーマネー、ノーマネー」とオウムのように繰り返している。(脱線するがインド人はノーマネーとノープロブレムという言葉が大好きだ。1日に数十回は聞くことになる)インドにはあくどい人、うざい人が沢山いるが優しい人や聖人も同じように混在すると地球の歩き方に記載されてある。この人はきっと不慣れな旅行者に優しい手を差し伸べる良い人間なのだろう。うん、遠慮なくご好意に授かろうではないか。

 案内君の50ccのバイクに3人乗りをして出発をする。まずはヒンドゥーの寺院である。有名かどうかは知らない。名前だけ早口に説明すると次いくぞと急かされる。入り口から覗いただけで5分といなかった。まあ無料なら文句も言えない。5分ほど走って次にイスラムの寺院を紹介してくれる。イスラム教徒でない人に紹介されるのも変な気がしたが、ここは観光スポットにもなっている有名な寺院だからであろう。深く考えなかった。ここも入口だけ。

 どうもせかせかして観光を楽しむ余裕がないなと思っていたら、案内君は次に高級なカシミール絨毯屋に連れていった。山の手の店である。まあこれも観光には違いない。調度品のお勉強もいいだろう。オレンジジュースが出されて、店主から矢継ぎ早に説明を受ける。ジュースは有り難く頂戴するが、なにせそんなものを購入する気は全くない。あっても買えない金額である。高級な物は2000USドル、安いものでも200USドルくらいした。そんなすがお&鈴木に対して30分は熱心に購入を勧めてくる。良いとは思うけど金がないと伝えると(インド人に対して“良いとは思うけど”は禁句である。奴らに社交辞令は通じない)店主は諦めた。別段残念そうな顔はしていなかった。まあ客商売だものそれくらいの常識はあるよな。

 次も案内場所も絨毯屋だった。さっきの店が松だとしたら竹といったところか。値段も半額くらいである。ここまでくれば案内君と店が繋がっているのは当然だけれど、さっきの店とここの店も姉妹店なのではないかと疑ってしまう。それならば先の店主が残念がっていないことも理解できる。商売倫理からではなく第2弾を用意していたからなのだ。ここでも弟店主(と名付ける。さっきの店が兄店主)から約30分説明を受ける。

 この時点でくたくたに疲れている。こっちは買う気ゼロなのに、店側の情熱に当てられ辟易している。案内君にもういいよと伝えるが彼は元気いっぱいだ。満面の笑みで次行こうと誘う。

 次は比較的庶民的な店だった。梅である。場所も闇市デリーにある。高い商品で200USドルほど。早く逃げ出したいすがお&鈴木は一番安いハンカチを100ルピーで購入した。三男店主&案内君は不満げであったが渋々解放してくれた。案内君がこの先いくつの店を用意していたのかを考えると恐ろしい。


 店を出た時、こちらの方を向いている視線に気づいた。一人旅の日本人だ。蔑む眼差しが痛かった。俺だってお土産屋巡りがしたいわけじゃないんだと目で訴えたが、たぶん通じなかったであろう。



※どうもヒンドゥー教というのは日本の神道に近いのではないか、と思える。別段宗教を意識しない人がたくさんいて、それら多くの人々は生まれながらにヒンドゥーであると。シヴァ神やガネーシャを自然に崇め、祭りに参加する。多神教なのも共通している(日本ほどはいない。なんといっても日本には神様が八百万いるからね)だから案内君は平気でイスラム寺院に案内したのだと思う。ただイスラム教徒を迫害するなどの排斥行為もあるので一概に似ているとは言えないけれど。


※日本で都会に慣れていない田舎者に絵画などを売りつける手法があるが、あれを僕はインド式と呼んでいる。

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