準備

さて、準備である。超文系サイト利用者としてはまずなんといっても本を読んで心構えを構築せねばなるまい。当時はインターネットなんて便利なものは無かったので情報といえば書物だけである。そのころのインド本といえば「地球の歩き方」と藤原新也の「印度放浪」くらいであった。椎名誠の旅行記が既に発刊されていたかどうか記憶にないがこれは日本に戻ってから読んだ。「印度放浪」は旅人(旅行者ではない。そこのところ誤解されてしまっては困る)のバイブルとされ、藤原新也は我々旅の初心者にとって憧れの存在であった。僕もこんな格好良い旅がしたい、こんな格好良く思索に浸りたい、と布団や電車の中で思い耽けったのだった。

 ここで質問です。インドといえばなんぞやという問いにあなたはなんと答えるであろうか? 「カレー」と答えるあなた、はい正解です。「カースト制度」と答えるあなた、はい正解です。「シヴァ神やガネーシャ」と答えるあなた、はい正解です。「タージマハール」と答えるあなた、ブー不正解です。まあ世界遺産に指定されているくらい素晴らしいお墓であることには違いありませんが、インドの中で1ヶ所しか行けないとしたら、その場所は決まっている。それはバラナシであります。偉大なるガンガー(ガンジス河のことね。パックツアーの軟弱者はともかく真の旅人はガンガーと呼ぶ)で身を清めてこそ、インドに来たかいがあるというものだ。だがしかぁし! ここでインドの地理を勉強してみよう。首都であるニューデリー、及びデリー(これは横浜と新横浜の関係と同じで交通の便利さを求めて隣に作った人工的な町がニューデリーである。デリーに比べて道路が舗装されて整ってはいるが、見るべきものは何もない)が時計に例えるとちょうど12時の位置にある。カルカッタ(今はコルカタと呼ぶらしい)が3時の位置、マドラス(マドラスチェックとかマドラスパイプのマドラスね。今はチェンナイ)が5時、そしてボンベイ(サラームボンベイ! 古い! でも良い映画です。今はムンバイ。スラムドッグミリオネアの舞台)が9時の位置にあります。この4都市以外飛行機のアクセスがないので、どうしてもある都市からある都市までが旅行範囲となってしまう。旅行期間は1ヶ月半あるけれど、なんといってもインドはでかい! パックツアーならともかく男の独り旅でせかせか動くのは美学に反する! というわけでやはり訪れる場所が限られてしまうのである。話は戻ってバラナシである。バラナシはちょうどデリーとカルカッタの中間に位置する。なのでインド初心者はデリーそしてアーグラ(12時半の位置)それからいろいろ寄ってバラナシ、いろいろ寄ってブッダガヤ(ブッダが悟りを開いた処ね)そしてカルカッタというコースを辿るのが一般的なのである。さてここで大きなジレンマが僕に襲い掛かる。インドと言えばバラナシであることは先に述べた。あれ? 砂漠はどこ? なんと北西インド(10時の位置)にしかないのである。ええええええええ。どーするよ俺? バラナシをあきらめたらインドに行きましたなんて大きな顔をして言えない。でも砂漠をあきらめたら我が人生の糧ともいうべき漫画「ボーダー」の主人公の教えを全うできない。ここで聡明な青年すがおはある答えに気づいてしまったのである。ユリイカ! 我発見せり! 社会人になっても1週間くらいなら時間をとれるだろう。その時に一般的コースでバラナシに行けばいいじゃないか。長期滞在できる今しか砂漠はいけないぞ。そんなわけで僕は反時計回りに12時から9時に向かって突き進むことに決めたのである。


 さてコースは決まった。ここで予算を検討しよう。バイトでためた30万円が僕の予算だ。もちろん飛行機代込みで。一番安いのが大韓航空で成田→ニューデリー、ボンベイ→成田で15万円だった。よし。これにしよう。頼んだぞ、大韓航空(今なら頼めねぇ)。とすると残り15万円でひと月半暮さなければならない。緊急事態のために5万は使わないでおきたい。とすると残り10万円。日割りで2200円。でも移動費はどれくらいかかるかな? うーん。地球の歩き方を読んでも詳しくは書いていないな。きっと半分くらいみとけば十分だろ。よしそのまた半分の500円で一日を過ごそう。最高でも1000円までにしよう。こんな感じで僕のインド放浪計画が進んだ。なんててきとうなのだろう。今考えると恐ろしい。ちなみに当時の為替レートは1ルピーが6円(これは確か)で1ドルが200円くらい(これはあやふや)だったと思う。自信ないけどそんなもんだったような記憶があります。違っていたらごめんなさい。単純に全部ルピーにすると全財産が25000ルピー分、1日の予算が83ルピー。ん? 良し、50~100ルピーで頑張ろう、なんて思考したことを記憶しております。


 パスポート(当時は赤かった。今は黒だよね?)とってビザとって、コレラ予防の注射を2回打って、15万円のうち11万円分をUSドル立てのトラベラーズチェックにして、2万円分ずつUSドルとルピーに両替して、リュックにTシャツ3枚・パンツ4枚・芯を抜いたロールティッシュ2つ・正露丸1壜・地球の歩き方を詰め込んで、ウエストポーチに2つのサイフとパスポート、日本の小銭をじゃらじゃら(インド人に喜ばれると書いてあった)と入れていざ出発!


 ※名称はどうも現地読みに合わせたみたいね。いつ頃そうしたのかさっぱりわかりませんが


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