第12話

 パーキングのレストランで食事を終えたあと、おれは夜の運転に備えて、ブラックのコーヒーを飲もうと思いたった。

 抽出過程の一部始終をメランコリックな音楽に載せて映し出すドリップ式コーヒー販売機のモニターを、おれはひとり、一瞬でも見逃すまいと思いながら眺めていた。深夜の食事後のけだるさが、綿アメのようなやわらかさでおれを包んでいる。

 いつの間にかオトタチがおれのそばへやって来て物珍しそうにモニターを見た。

「へえ、こんなふうに中の機械が見えるんだね。こうやってコーヒーを今作ってますよーって教えてくれるんだね」

「そうだね。でもこの機能いるかね。まあ、出来上がるまでの暇つぶしにはなるけどさ。あれ、善太と理子は?」

「今トイレに行ってるよ。これからしばらく走ってもらうけどタケオ君、運転大丈夫そう?」

「う、うん。なんとかやってみるよ。実はおれ、高速初めてなんで結構ビビってる」

「あら、そうなんだ。でもきっと大丈夫よ。お守りあるんでしょ」

「花園神社でもらった芸能のお守りはね・・・交通安全も買っとけばよかったかな」

「大丈夫よ、神様は結構寛容だからついでに守ってれるよ」

「さっきから、神様の話ばっかだよね。そういえば、オトタチの会社も天の御柱だっけ、そんで花園神社とか古事記とか・・・なんだか神様にやたら縁があるんだけど。あ、できた」

 おれは出来たてのブレンドを取り出して手に持った。まだアツアツで、今すぐ飲むと確実に舌をやけどしそうな気配だ。おれはふうふうとコーヒーを冷ましながら、口をつける寸前にふと気になってオトタチに聞いてみた。

「そういえばオトタチはさあ、なんでそんなに神様とか古事記とかに詳しいの?ひょっとして、オトタチも神様だったりして」

「そうだよ」

 ぶふっ!とおれは口をつけた瞬間、地獄のように熱いコーヒーを吹き出してしまった。

「タケオ君!大丈夫?」

 あやうく手からコーヒーを落としそうになったおれだったが、なんとかこぼさずに済んだ。

 おれは何と言っていいのかわからずにオトタチを見た。まるで今の自分の発言を肯定するかのように微笑んでいる。ウソでしょ、と言いかけたとき

「あ、善太君と理子ちゃん戻ってきたよ。さあ、深夜ドライブ頑張ってね!」

 そう言ってオトタチはおれの背中をトンと軽く叩いて二人の方へと歩き出した。おれはその場にコーヒーを片手に持ったままぼんやりしていたが、まさかね、と思い直し彼女の後を追った。

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