第9話

 「善太は知ってる?」

 おれはなんとなく悔しいので後ろでスナック菓子をほおばっている善太に聞いてみた。

 「タケちゃん、おれ世界史だから習ってないんだ。ぼりぼり。でもあれでしょ、確かヤマタノオロチとかじゃなかったっけ?ばりぼり」

 「そうよ。その話が載っている本。だいたい今から1300年くらい前、712年に太安万侶が編纂へんさんしたって言われてるのね。他に有名なのはイザナキ・イザナミとか、アマテラスの天の岩戸とか、スサノオのヤマタノオロチもそうだし、因幡の白ウサギも有名ね」

 急にアカデミックな話をし始めたオトタチには驚いた。しかし悲しいかな、おれにはほとんど『古事記』の知識はない。話に入っていけないおれは理子が羨ましかった。

 「その中で、神様の住んでいる場所が出てくるのよ。さっき理子ちゃんが暗誦したなかに出てきた高天の原ってところがそうなの。フェスの名前もそこからとってるのはわかるでしょ」

 「うん、私わかるよ。だってテストに出たもん。なんでこんなの勉強するのかって思ったけどね。他にもなんだっけな、そうそうイザナキ・イザナミが葦原あしわらの中つ国をつくって、それでいろんな神様を生むんだけど最後に火の神様・・・ええとなんだっけな」

 「カグツチよ」

 「そうそう、オトタチさんすごいね。そのカグツチを産んで大やけどしたイザナミは死んじゃうのね。でもイザナキはどうしてもイザナミに会いたくて黄泉の国てゆー死者の国まで会いにいくんだけど・・・」

 おれはその話をどこかで聞いたことがあった。そうだ、小学校の時に、学校の図書館で確か絵本を見たぞ。

 「それって、そのあと確かさあ、イザナミが腐った姿を見られて怒って追っかけるやつか?」

 「そう!お兄ちゃんもそれ知ってるのか。それであわててイザナキは逃げるんだけどあとからヨモツシコメっていうなんかおっかないのが追っかけてくるの」

 「思い出した!それでさ、ブドウとか桃とか梨とかいろいろ投げて、それでピンチをのがれるんじゃなかったか?」

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