第8話
「へえ、なんかフラメンコ調の曲もあるんだ。さっきのぶっ飛ばせとは全然違うけど、いいねえ」
オトタチは理子の作った「アンダルシアの鐘」も気に入ったようだった。
「やっぱりあなたたち、才能あるわ。私の見立てに間違いなかった」
新東名道を突っ走りながらオトタチは言った。窓の外では夏の夕日が暮れなずんで、空を紫色に美しく染めている。
突然それまでスマホを黙っていじっていた理子が口を開いた。
「ねえオトタチさん。これから行く御所市ってどんなところ?今ちょっと調べてたんですけど、その、田舎というか、いえ、だって『神々の降る里』とかHPに書いてあるし・・・」
「うん、まあ確かにそうなんだけど。そこは特別な場所なの。・・・ねえ、みんなは『古事記』って読んだことある?」
オトタチが突然『古事記』なんて言い出したのでおれは少し驚いた。正直、おれはほとんど『古事記』がなんだかわからなかったのだ。しかし理子は違った。
「あ、あたし知ってます!アメツチハジメノトキタカアマノハラニナリマセルカミノナハアメノミナカノヌシ。ツギニタカミムスヒノカミ。ツギニ・・・」
「お前何言ってんの?なんでそんなの言えるの?すごくね?」
内心舌を巻きつつおれは言った。
「だって学校の日本史の教科書、最初の30ページ、全部『古事記』のことが書かれてるんだよ。しかも、最初の部分の暗誦テストがあったんだよ。もう、超大変だったよ!」
「なんだそれ。いつから学校で『古事記』教えるようになったんだよ。おれん時はそんなのなかったぜ」
「お兄ちゃん、3年くらい前、すごい話題になってたじゃん。歴史の教科書に『古事記』が復活するっていうんで、反対する人がデモ行進したりしてたじゃん」
そういえばそんなことがあった。おれもニュースでそれを見た記憶がある。しかし結局文部科学省のゴリ押しで教科書に採択され、今年から改定されたらしい。喉元過ぎれば、で今はほとんど誰もそのことを話題にする者はいない。
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