第7話

 「おまたせー」

 白のハイエースの運転席から降りてきた久しぶりに会うオトタチは、やっぱり輝いていた。白のパンツにグリーンのサマーセーターがとても爽やかで似合っている。

 「おーあこがれの機材車、ハイエース!」

 おれは荷物と楽器を積み込みながら言った。

 「うふふ、いいでしょ。新車よ。タケオ君、あとで運転ヨロシクね」

 内心高速道路の運転にビビリながらもおれは

 「オッケー、オトタチが疲れたらすぐ変わるよ」

 と安請け合いした。

 「じゃもう変わって」

 「早っ!」

 こんな他愛のない会話によって、おれはこの上ない幸福感に包まれていた。理子も善太も、初めてのツアーで楽しそうだが、おそらくおれの比ではないだろう。

 おれは助手席に座り、車を走らせ始めたオトタチに、アイフォンに録ったギルモアヘッドの新曲を流して聴かせた。

 「わあ、これかっこいいね!速いねえ。バリバリのメタルじゃない!なんて叫んでるの?ぶっとばせ?あはは、面白―い」

 オトタチは2曲目の「ぶっ飛ばしてボコボコにしろ!」が気に入ったらしい。スタスタという2ビートのファストナンバーだ。ザクザクいうスラッシーな理子のギターが心地よい。この曲は勢いに任せてほんの30分ほどで出来た。歌詞を考えるのが面倒だったのでとりあえず

 ぶっとばせぶっとばせ!

 と叫んでみたら何となくしっくりきたので、それをそのまま曲名にしたのだ。なんともアタマの悪そうなタイトルだが、おれの作った曲はだいたいこんなもんだ。

 ちなみに、他にどんな曲があるかといえば

 「殺人ブルドーザー」

 「老人とピストル」

 「スーサイドガールブルース」

 みたいなものばかりだ。一方理子が作詞をしたものは

 「ソレイユ」

 「アンダルシアの鐘」

 「サマータイム」

 のようにお洒落な雰囲気が漂っているのですぐわかる。

 俺たち兄妹のセンスのこういうバランスがギルモアヘッドの個性だとおれは思っている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る