第5話

「大丈夫、そのへんはぬかりありません。我社が責任をもって客を動員します。ツアー自体は、当社主催のフェスティバル形式のライヴなんで大丈夫です。こちらをお持ちください」

 そう言って渡されたフライヤーには


 タカアマハラ・ロックフェス


 というロゴが黒字に白字で浮かんでおり、日付と場所が記入されているだけだった。こんなもんで人が来るのだろうか。名前もロックフェスらしからぬものだ。タカアマハラって何だ。

 竹見の言葉を引き継いでオトタチも言う。

「このフェス、歴史があって知る人ぞ知るフェスなんだよ。結構人も来るから安心して。とにかくタケオ君たちは全力でツアーをこなして。ツアーにはわたしが同行するわ。タケオくん、車の運転はできる?」

「え、いちおう免許は持ってるけど」

「じゃ、わたしと交代でバンを運転してね。ライヴは全部で四ヶ所。ここにも書いてあるけど最初は奈良の御所市ってところ。次が三重県の志摩。最後の二箇所は鳥取で米子と松江」

「どこにあるかぜんぜんわかんないけど、やけに渋そうな場所だね」

 多少場所の選定にひっかかりはあったものの、おれはオトタチが同行すると言った時点で心を決めた。迷いなくサインをした。

「よかったあ、ありがとう。来月には出発だから、準備してね。出発が近づいたらまた連絡するわ。よく練習しておいて」

 おれはまだその場に留まりたかったのだが、彼女は仕事中だし、最早いる理由もなくなったので後ろ髪を引かれる思いでおれは立ち上がり、ドアへと向かった。そのとき、はじめて入口ドアの上に異様に立派な神棚があるのに気づいた。重厚な作りではあるがこの部屋にはなんだか取ってつけたような印象を受けた。

「それじゃ8月に。みんなでがんばろうね」

 オトタチの笑顔に送られておれは部屋を出た。

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