第4話

「話はオトタチから聞いています。彼女が言うのだから間違いはないでしょう。早速ですがこちらの書類に目を通していただき、よろしければサインをしてください」

 おれはいきなりビジネスの話になってたじろいだ。

「ちょ、ちょっと待ってください。本当にいいんですか?僕たちの演奏を聴いたのはオトタチさんだけで、とくに僕らには実績もないし、音源もないんですよ」

「大丈夫。間違いないです。私は彼女に全幅の信頼を寄せてますんで。さあ」

 有無を言わせない感じだったので、とりあえずおれは書類に目を通した。小難しい条項が並んでいる。それでも頑張って内容をよく読むと、とりあえず仮契約ということらしい。最初のツアーが成功したら、その後本契約になるということらしい。テストケースといったことなのだろうか。

「お茶どうぞ・・・」

 大月さんがお茶とお菓子をおれの前に差し出した。おれは勧められるままに茶碗を手に持った。やけに黒いお茶だ。香りもなんだか独特だ。しかし飲むとほうじ茶のような風味で、まずくはなかった。茶菓子に目を移すと、くすんだオレンジ色の四角いお菓子が木の皿に載っていた。見たことがないものだったのでどうしようかと躊躇していると

「それは蘇っていうの。珍しいでしょ。大月さんの手作りよ。とってもおいしいの」

 デスクに座っていたオトタチがそう勧めるのでおれは思い切って口に入れた。ほんのりと甘く、なんだか懐かしい味がした。

「それにしたって僕らみたいな無名のバンドがツアーして、お客は来るんですか」

 蘇をほおばりながらおれは素朴な疑問をぶつけた。

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