宇宙旅行へ出発だに

 俺はそのよく目立つタクシーにゆっくりと近づく。

 思った通り、行灯は段ボールでできていた。しかも茶色いガムテープで補強され、なんともお粗末に天井に固定されていた。


 誰がどう見ても意味不明なこのタクシー。会社がこんなことを許すはずがない。おそらく個人タクシーだと考えるのが妥当だ。それとも、変なおっさんが趣味で紛らわしいことをやっているだけかもしれない。


 「おーい、そこのジェントルメン!タクシー乗りたいんけ?」

 声のするほうへ顔を向ける。そこには顔を赤く火照らせた浅黒くて背の低い老人が一人立っていた。彼は無名のパンクバンドのロゴが入った黒いTシャツ。その上に紺のジャケットを羽織っており、ズボンはダメージ加工の施されたジーンズといった格好であった。車だけでなく、その身なりも他のドライバーとは決定的に違っていた。


 「あっはい!」

 俺は思わず言葉を返した。同時に、しまった!と強く思う。

 「じゃあ、僕のタクシー乗るダニ!」

 一瞬沈黙したが、これも何かの縁だと思い直し、俺は頷いた。

 「よっし!決まりダニ」

 男は指をパチンと鳴らし、手動でドアを開いた。なぜ指を鳴らしたのかは不明だ。


 俺は恐る恐る後部座席へと座った。

 

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わたくしギャラクシータクシー 藤原弘夢 @futaba1noue

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