第2話





僕と彼女は、2年浪人して入った大学のインカレサークルで出会った。近く、というには少し距離があり、遠いというには行きやすい位置にある僕らの学校だけど、ふたりの家は思ったより近かった。

サークルは、そこそこ人気のあるバレーサークルだった。しかし彼女は確か、「するんじゃなくて見るのが好き」という、突拍子もない理由で入ったんだと思う。僕もあまり人のことは言えない。もう顔も名前も思い出せない年下の先輩に「どっかサークルはいらないと孤立するぞ」と脅されて、友人の雄太に付き合って入った。もともと運動は得意で好きだったけど、特になにかに打ち込むことはなく、ただこなしていくだけだった。

無理やり誘われたサークルの新入生歓迎会で彼女に出会ったのだが、彼女は場の雰囲気に飲まれてなかなかに飲んでしまい、かなり酔っていた。


「飯田くんってさぁ、お酒飲まないんだねぇ」


僕のコーラが入ったグラスをふらふらと揺らしながら、彼女は隣に座ってきた。それが僕と彼女の初めての会話だった。名前は自己紹介の時に言っただけだったから、なぜ覚えてるのかを疑問だった。(後に彼女に直接聞いたら、「顔が好みだったからじゃない?」と言われた。)


「君は何杯目なの?随分酔ってるけど」

「君!初めてそんなふうに呼ばれたよ。大山結花っていいます。いとへんにきち、と、簡単な方のはな!で、ゆいか」


僕の話を全く聞かずに聞いてもいないことを答えてきた。正直こういうタイプの女は嫌いだった。頭が悪そうで、人の話を聞かない。そもそも、当時の僕は自分より頭の悪い人間は嫌い、という謎のプライドがあった。

だから、当時付き合っていた人も自分と同じくらいのレベルの大学に通う、予備校時代の人だった。理性的な会話ができるところが好きだった。


「大山さんは、何杯飲んでるの?」


あえてきつい印象を与えるように、語気を強くして話した。絡まれなければいいと思ってやったことだった。


「飯田くんて、頭良さそうに喋るねぇ。何杯目かな、忘れちゃった。向こうの席に座ってると、どんどん飲まされるから。逃げてきたんだぁー。かくまって。」


最悪だった。恐らく拒否してもここに居座るだろうし、そうなれば僕が話し相手になることは間違いなかった。語気を強くして話すという事も、相手に「頭良さそうに喋る」という意味のわからない印象を付けるだけで、拒否しているという印象は与えられなかった。


僕は諦めて、彼女の話相手をする事に徹した。一緒に歓迎会にきた雄太を紹介し、彼女も3人ほど紹介してくれた。うちの1人は彼女の親友だった美紗希だったが、後の2人は忘れてしまった。


そこで、彼女の事を多少知った。意外と家が近い事。お酒が弱いのに好きな事。実は1年浪人している事。美紗希も1年浪人しているけど、周りには浪人していることは隠している事。現役生の彼氏がいる事。あまり仲はよくない事。

浪人の話は、2年浪人していた僕にも共感できることで、話が盛り上がった。頭は悪そうだったけど、彼女は1年間必死に勉強して、現役時代にF判定だった大学に入ったそうだ。2年浪人して、志望校を落として大学に入った僕には少し耳の痛い話だった。雄太も2年浪人だった事から、浪人生は浪人生でまとまるんだね!と彼女はけらけら笑っていた。


初対面の印象よりかなりいい人だな、と思いながら、この日はお開きになった。「また美紗希とかとも飲もうよ!」という彼女の提案で、連絡先を交換し、その日彼女と別れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

愛していた、なんて言えない。 佐倉芳佳 @yoshika__sakura

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ