愛していた、なんて言えない。
佐倉芳佳
第1話
陽が伸びて、長くなった彼女の影を少し踏みながら歩く。彼女と僕の間には会話はなく、彼女は時折僕がついてきているかを確認するように少し斜めを向く。視界の端に僕を捉えると、ふっと視線を前に戻す。
隣で並んで歩かなくなったのはいつからだろう。会話が続かなくなったのはいつからだろう。思い出せない程に時間が経ってしまった。
人の記憶というものは曖昧で、僕ももちろん昔のことはなんとなくしか覚えていない。しかも、高確率で美化される。例えば、僕が小学生の時の学芸会で司会で大活躍した記憶は、本当はズボンのチャック全開のまま司会をして違う意味で笑いを誘った、というオチが付いているのかもしれない。話がそれたが、そのくらい美化されるということだ。だから、僕がこれから始める長い回想は、もしかしたら自分の都合のいいように美化されているかもしれない。確実じゃないのだ。
ただ、今の僕の頭には、昔の自分に対する後悔の2字しか浮かばない。こんな距離感じゃなきゃ一緒にいられなくなってしまったこと。彼女に気を使わせてしまっていること。傷つけたことも、傷つけられたことも、消せないほど深くしてしまったこと。この距離感が、僕達ふたりの関係を如実に写し出していたのに、僕はまた、余計なことを言ってしまう。
「────めんどくさい。」
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