第39話 プール 5

 ゆかりちゃんとのプールデートも終わり、翌日から日焼けせいで地獄の苦しみを味わうことになった。


 日頃、炎天下で長時間活動することがほとんどないため、僕の肌は赤ちゃんの肌並に敏感だったようだ。それは、病院暮らしが長かったゆかりちゃんも同じようで、日焼け止めを塗ってたはずだったけどあまり効果がなく、透き通った白い肌はプールから帰宅する頃には真っ赤になっていた。ゆかりちゃんも翌日は痛くて動けなかったそうだ。


 それでも、週末になる頃には痛みも引いていたので、地元の花火大会に一緒に出かけることができた。ゆかりちゃんの浴衣姿がとても似合っていて可愛かった。女性が浴衣を着ると美人度が3割増しになるのはなぜなんだろう? と、不思議に思った。


 次の週は、ゆかりちゃんと一緒に宿題をしたり、映画を見に行ったり、あんなに日焼けで苦しんだのに今度は近くの海水浴場にまで行った。人生でこんなに充実した夏休みを送ったのは初めてかもしれない。事故後の悲惨な地獄の日々を考えたら、今は天国にいる気分だ。


 今日もゆかりちゃんの家で宿題の数学のプリントを一緒にやっている。


 僕が2次方程式の問題で頭を悩ませていると、唐突にゆかりちゃんが話し始めた。


「ねぇ、晶くん。最近、絵を描いてる?」


 言われて気づいたけど、夏休みに入ってから1回も絵筆を持ってなかった。


「そういえば、全然描いてないや」


「ダメじゃない。わたしはちゃんと描いてるわよ。毎日描けとは言わないけど、定期的に描いてないとまた猫の絵がイカの絵に間違えられちゃうわよ。せっかく上手になってきたんだから」


 そう言って、ゆかりちゃんがシャーペンの先を僕に向けて注意する。


「イカ猫の話しは、僕の中ではタブーなんですけど……」


「ごめんごめん、禁句だった? でもさ、ホントに描いたほうがいいと思うんだよね。だから、明日、部活に行ってみない?」


「部活? 部活か…… いいね、行こうか。多分、大川部長も夏期講習でいるはずだから、お昼一緒にどうかメールして聞いてみよう」


 思い立ったが吉日。僕はすぐに大川部長にメールした。そしたら、僕が2次方程式を解き終える前に返事のメールが来た。


「部長もOKだって。お昼以外にも講習が始まる前と終わった後にも来るってさ」


「やった! 久しぶりに大川部長に会えるね。千里先輩にも会えたら最高なんだけどなぁ。忙しいって言ってたからダメか……」


「一応、連絡のメールだけしておいたらどうかな? ダメもとでさ」


「そっか…… そうだよね! メールしてみる」


 そう言って、ゆかりちゃんは、すぐにメールを打ち始めた。


 そんなこんなで明日、僕たちは、久しぶりに学校に行くことにした。

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