第17話 恋愛相談 その2
その日の放課後も図書委員の仕事だったので、僕は図書室にいた。
遅れてきた渡嘉敷さんが図書室に入ってくると、後ろに同じクラスの三浦さんがくっついてきていた。
三浦さんは、渡嘉敷さんとは対照的でショートカットが似合う元気のいい子だ。
「山崎君、ちょっといい? 例のことで話しが聞きたいんだけど……」
渡嘉敷さんは、佐々木の恋敵に対して相当気にしているようだ。
今日は図書委員の仕事もほとんどなかったので、自由時間に3人で話しをすることになった。
渡嘉敷さんの話しによると、昼休みに図書館で話した後、気になって教室に戻るとすぐに三浦さんを問い詰めたようだ。最初は、否定していた三浦さんだったが、僕の話しを持ち出してさらに追い詰めると、三浦さんは佐々木が好きなことを白状した。
小学校の時から佐々木のことが好きだということを聞かされていた三浦さんは、渡嘉敷さんの気持ちを考えるとなかなか打ち明けられなかったみたいだった。だが、今回白状したおかげでスッキリした気持ちになったと言っていた。
「それにしても、なんで私たちが佐々木くんのことを好きっていうことがわかったの?」
三浦さんの質問に、渡嘉敷さんも激しく頷いてる。
「内緒」
僕がふふんと、得意顔で言ったら、
「ちゃんと教えなさいよ!」
2人がマジになって怒ってたんで、ちょっと怖かった。
1週間後。
図書委員の当番の日の放課後、僕が図書室で返却された本を本棚に戻していると、図書室のドアが勢いよく開けられて三浦りんが入ってきた。
図書委員の上級生に『静かに』と注意されていたが意に介した様子もなく、図書の仕事をしている僕を見つけると図書室の奥へと僕を引っ張っていった。
「山崎! あんた責任とりなさいよ!」
いきなり呼び捨てにする三浦さんのすごい剣幕にも驚いたけど、三浦さんの目に涙が溜まっているのにも驚いた。
「な、な、何? いきなり、なんだよ!」
僕は戸惑いながらも、他の図書委員に変な目で見られていないか周囲を確認した。すると、遅れて図書室に入ってきた渡嘉敷さんがこっちにやって来る。彼女も目を真っ赤にしていた。
「あんたが佐々木に告白しろってけしかけたんだから、責任もってなんとかしろっていってるのよ!」
睨みつける女子2人に図書室の隅に追い詰められた僕は、状況を把握できていないためおろおろするばかり。
「だからなんのことだよ!? 第一、佐々木に告白しろなんて一言もいってないだろ」
「いいえ! あんたは、佐々木のことを好きな女子がたくさんいるって教えて、私たちを焦られて告白するように仕向けたんじゃないの! だから、私たちは相談して……」
そこまで言って、三浦さんは涙をぽろぽろ流して泣き始め、一緒にいた渡嘉敷さんまでもが泣き出した。
「ちょ、ちょっと、泣くなよ……」
女子2人の泣き声が図書カウンターにいた上級生の耳にも届いたらしく、興味深げにこっちの様子を見ている。僕は頭を下げて謝るジェスチャーをして上級生たちの視線をなんとか回避した。
2人が泣き止むのを待って、僕は状況を説明してもらった。彼女らの話しをまとめると次のようなことだった。
渡嘉敷さんと三浦さんは、お互い話し合ってどういう状況になっても恨みっこなしということで佐々木に告白することにしたようだ。
放課後の誰もいない教室に佐々木を呼び出して2人一緒に告白すると、佐々木が『2人ともありがとう。でも俺、好きな子がいるから、どちらとも付き合えない』とハッキリ断られたそうだ。
さすがは、クラス・ナンバー1のイケメン! 2人同時の告白も簡単にふるなんて男前レベルが高すぎる!
「あんた、佐々木に好きな人がいるなんて一言もいわなかったじゃないの! この責任どうしてくれるの! あんたのせいで負わなくていい乙女心に大きな傷を負ったじゃないの!」
恨めしそうに見つめる2人の視線で、僕は居た堪れなくなった。
「それで、佐々木は誰のことが好きなんだ?」
「だから、それを見つけるのがあんたの責任でしょうが!」
佐々木が好きな子の名前を教えてくれなかったもんだから、三浦さんは理不尽な要求を僕に突き付けてきた。僕は、頭が痛くなった。
結局、佐々木が所属するサッカー部が終わるまで図書室で待機して、佐々木が教室に戻って来るを見計らって待ち伏せした。
「佐々木、ちょっといいかい?」
「山崎か、なんだ突然」
普段あまり話さない僕から声を掛けられて、佐々木が驚いた顔をした。
「いや、さっき渡嘉敷さんと三浦さんがお前に告白しただろ? そのとき、お前が『好きな子がいる』て言ってたのに、どの子が好きなのか教えてくれないから聞き出してくれって頼まれたんだよ。本人たちは、断る口実じゃないかって疑っててさ。――佐々木が話したくないのに聞き出そうとしても無理だって言ったんだけどさ、2人ともしつこくて……」
「そうか。山崎も大変だな。でも、好きな子がいるっていうのは嘘じゃないよ。ずっと前から好きなんだ」
佐々木がちょっと照れた顔を見せた。こんな無防備な表情を見たら、女子はみんなイチコロなんだろうなぁって僕は思った。
「じゃ、好きな女の子の名前は聞かないよ。その代り僕の質問に答えてもらえるかな。ある程度佐々木の好きな子の情報をもらわないと、あの2人納得しないだろうからさ。頼むよ」
僕が拝むようにして頼むと、佐々木は快く頼みを聞いてくれた。
「じゃ、時間を取らせないから、ここに座ってくれよ」
佐々木をそばにあった椅子に座らせて、僕も真向いに座る。
「じゃ、僕の質問に”いいえ”で答えてもらえるかな?」
「いいえかい? なんか嘘発見機みたいな感じだな」
佐々木は、容疑者が警察から尋問される様子を想像してか、少し身構えていた。
「そんなに緊張しなくていいよ。リラックス、リラックス。じゃ、いくよ。――佐々木の好きな人は、男性ですか?」
僕が質問すると佐々木は吹き出した。
「ぷっ、そんなことあるわけないだろ」
「いいえで答えて」
僕が質問を繰り返すと、佐々木が素直にいいえで答える。佐々木の頭のロウソクは変化なし。これは、最初からわかっていることだ。
この方法は、以前から試してみたかった方法なんだ。僕の経験だと、嘘をつくとロウソクに何かしらの変化が出るのは知っている。あとは、その些細な変化を見落とさなければいい。
「次、佐々木の好きな子はこのクラスの人ですか?」
佐々木がいいえと答えると、ロウソクの炎の色は変わらなかったけど、炎が左右に揺らめいた。
「次、その子は、同じ小学校の出身ですか?」
質問すると、また佐々木のロウソクの炎が左右に揺れた。
同じ蟹ヶ谷小学校出身の女子は9名いるけど、渡嘉敷さんと三浦さんは外れるからあと7名のうちの誰かだ。
僕は、残りの7名の名前を順番に言っていった。すると、ある子の名前を言った時、佐々木のロウソクの炎がピンク色に染まり、大きく左右に揺れた。
(へぇ、意外だったなぁ。佐々木がこの子のことが好きだなんて)
佐々木の好きな子を知って、正直驚いた。だけど、さすが佐々木だなとも思った。
「佐々木、ありがとう。お前が好きな子のことは大体わかった」
僕がお礼を言って立ち上がると、佐々木が不満そうな顔で言った。
「おい、こんなんで何がわかったんだよ。いいかげんなことをあの2人に教えるなよな。それに間違って違う子のこと言われたらこっちも迷惑なんだからよ」
そりゃそうだ、間違って違う子の名前をあの2人に教えたら、絶対にクラス中に広まる。本当に好きな子に誤解されたら、佐々木にしても気分が悪いだろう。
「じゃ、僕が感じた佐々木の好きな子って、○○○○だろ」
僕のその答えに、佐々木の頭の上のロウソクが黄色く一気に燃え上がった。
僕は、佐々木の驚いた顔をにんまりと見つめてやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます