第18話 恋愛相談 その3

 次の日、僕が登校すると、待ち構えていたように渡嘉敷さんと三浦さんがやってきた。そして、三浦さんの開口一番の言葉が、


「どうだった? 佐々木くんが好きな子はわかった?」


 興味深々に僕の返答を待つ2人。


「ああ、本人から直接名前は聞いてないけど、佐々木が誰のことが好きなのかは、質問してみてわかったよ」


 僕は、周囲に聞こえないように声を落として言った。


「それで誰なの? その好きな子って」


 身を乗り出すようにして聞いてくる2人に対して、僕は横目でチラリと佐々木を見た。


 佐々木は、渡嘉敷さんと三浦さんが僕のところへ行ったのが気になったのか、友達と話しながらもさっきから僕の方をチラチラと様子をうかがっている。


「放課後でいいかい? 今は、ほら佐々木もこっちを気にしてるから言いにくいからさ。放課後、また図書室で詳しく話すからさ」


「えー! 今知りたーい!」


 僕の返答に不満顔の2人だったが、ちょうど担任の赤池先生が教室に入ってきたので、僕を問い詰めるのをやめてあきらめてくれた。




 今日の3時限目は体育の授業だったので、女子は2時限目の終わりの中休みの20分を利用して体育着に着替える。ほとんどの女子は、トイレを利用して体育着に着替えるのだけど、中には男子のいる教室で、ワイシャツの上から体育着を着込んでからワイシャツを抜き取るという荒業で着替えるツワモノもいる。


 渡嘉敷さんと三浦さんも着替えのために教室を出て行った。佐々木はサッカーボールを持って、男子数人と一緒に外へリフティングの練習をしにいった。


(よし!)


 僕は3人がいないのを確認してから、クラスのある女子に声をかけた。


「佐藤さん、着替え終わったら図書室に来てもらってもいいかな? ちょっと佐々木のことで少し話しがあるんだけど」


 僕が声をかけたのは、佐々木のことが好きな女子で残り3人のうちの1人、恋のレースの最後尾にいると思っていた佐藤加奈だ。


 僕が佐々木の名前を出すと、佐藤さんのロウソクの炎が一瞬黄色く燃え上がった。


「わかった……」


 佐藤さんは頷くと、着替えるために急いで教室を飛び出して行った。


 ――しばらくして、僕が図書室の長テーブルで座って待っていると、佐藤さんがやってきた。


「話しって何?」


 佐藤さんの半袖に短パンから出る手足が思いのほかスラリとしていて、僕はちょっとドキドキした。


「昨日、渡嘉敷さんと三浦さんの2人が佐々木に告白したの知ってる?」


 僕の言葉に、真向いに座った佐藤さんが驚いた表情をした。それよりも佐藤さんの頭の上のロウソクが尋常じゃない燃え上がり方をしてる。黄色い炎がロウソク本体よりも大きいくらいだ。


「な、な、なんで、佐々木くんのことをわたしに尋ねるの?」


「だって君、佐々木のことが好きなんだろ?」


 僕が決めつけるようにして言うと、相当に動揺したのか佐藤さんの声はうわずって、目も泳ぎっぱなしになった。


「な、な、何言ってるの? そ、そんなことあるわけないじゃない!」


「そうなんだ。じゃあ、渡嘉敷さんと三浦さんが告白した結果は知りたくないか……。ごめん、僕の勘違いだったね。この話しは忘れてよ」


 僕がちょっと意地悪をして席を立って教室へ戻る素振りを見せると、佐藤さんは慌てて僕を引き留めた。


「ちょ、ちょっと待って。一応、聞いておくわ。わたしに関係がなくても、こういう話しは少しだけど興味あるから。――それで、どうなったの? 佐々木くんは、誰と付き合うことになったの?」


 佐藤さんのあまりの必死さに、僕は思わず噴き出した。


「ぷっ。そんなに慌てなくていいよ。君がさ佐々木のことを好きなのはわかってるんだよ。それより佐々木のことだね。佐々木はさ、好きな人がいるって言って2人をふったんだってさ、すごいよな佐々木のヤツ。三浦さんもだけど、あんな可愛い渡嘉敷さんまでフルなんてさぁ……」


 そこまで話すと、佐藤さんは胸を撫で下ろしたようだった。ロウソクの炎も少し黄みがかったオレンジ色をしてるけど、元の大きさには戻っている。


「佐藤さんは、佐々木の好きな人って誰なのか気にならない? 渡嘉敷さんと三浦さんも気になって佐々木に聞いたらしいんだけど、答えてくれなかったって。そこで、佐々木が誰のことを好きなのかを調べてくれって僕が頼まれちゃってさ、それで昨日佐々木に聞いてみたんだ」


 僕の話しに真剣になって耳を傾ける佐藤さんは、その様子だけで佐々木のことが大好きだっていうことがバレバレになっている。


「直接、佐々木からは好きな人の名前は聞き出せなかったけど、いくつかの質問をして好きな子がわかったよ。実際、その子の名前を出したらさ、佐々木のヤツもの凄く驚いてたよ」


 僕が昨日の佐々木の驚いた顔を真似して見せたけど、佐藤さんに思いっきり無視されて話しの先を促された。


「で、佐々木君の好きな人って誰?」


「君だよ。――佐々木は、ずっと前から君のことが好きなんだって」


 僕の言葉で佐藤さんの頭の上のロウソクが真っピンクになって燃え上がった。

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