第12話 お葬式

 お葬式は、おじいちゃんが檀家になっている近所のお寺で行われた。


 初め、坊さんを呼んで身内だけでひっそりと行おうと、紀之伯父さんや八重子伯母さんが提案したのだけれど、おばあちゃんが県の畜産農業組合やたくさんの取引先や町内会、おじいちゃんが加盟している色々な団体などの手前、身内だけですることはできないっというので急きょお寺の本堂を借りて葬儀を執り行うことになった。


 本堂では、ご本尊の阿弥陀如来像の前に遺影とおじいちゃんの亡骸が入れられている木棺が安置され、その目の前で住職がお経を唱えている。


 本堂に並べられた50ほどの座布団はすぐに座るところがなくなって、葬儀の参列者が外にまで溢れかえっていた。突然の訃報でもこれほど多くの人たちが訪れることは、おじいちゃんの人柄が伺えた。


 お経が唱え終えると、お焼香をするために大勢の参列者が遺影の前に並んだ。


 親族の大半は、参列者のお世話や今後の準備や住職への挨拶やらで本堂から出て行った。僕とおばあちゃんだけがその場に残り、大勢の参列者のお悔みの言葉に頭を下げていた。


 おばあちゃんは気丈にも涙を流していなかったけど、頭の上のちびたロウソクの炎が、今にも降り出しそうな曇天の色になっていた。多分、おばあちゃんの心の中では大雨が降っているんだろうと思うと、僕は泣けてきた。


 参列者の丁寧な挨拶に感謝の意を示していると、気になることがあった。


 葬儀の参列者のほとんどは、頭の上のロウソクの炎が灰色っぽい沈んだ色をしているのに、知り合いの市議会議員が、おばあちゃんに『訃報を聞いたときは悲しみで涙が止まらなかった。惜しい人物を亡くした。今でも涙が込み上げてくる』とか話していたけど、頭の上のロウソクの炎の色が明るいオレンジ色だった。オレンジ色って少し気分がいい時の色だったような……。僕は、この時から政治家を一生信用しないと心に誓った。


 このことは色々と考えさせてくれた出来事だった。人々の頭の上のロウソクは、市議会議員のように表面的に悲しんで見せても人の本質を見せてくれるようだ。


 平常時は、通常のロウソクの炎の色と同じの赤みがかったオレンジ色。驚いたり興奮したりすると黄色になったり、怒ると真っ赤になる。気分がブルーになるっていう言葉があるように、落ち込んだ時は炎の色もブルーになる。でも、恐怖を覚えたときも濃いブルーになったりするので、その辺は状況次第のようだ。あと分かっているのは、絶望が黒色になるとことだ。緑色や紫色、茶色や白色などは見たことはあるけど、まだハッキリと分かっていない。その時の感情が強いと炎の大きさにも影響があることも付け加えておく。


 そういえば、住職がお経を唱えている間に頭の上の炎が無色透明になっていた。もしかしたら、無心になることと関係があるのかもしれない。


 それからロウソクは、炎だけじゃなく形にも意味があるようだ。長さは、寿命と関係がある。これは、おじいちゃんの死で確信した。


 ロウソク自体の色も薄汚れていたりすると、大概嫌な性格の人が多い。心が汚れてる人は、ロウソク自体も汚れているのかもしれない。


 そういえば、ゆかりちゃんを担当して医療ミスを犯した三雲っていう医者のロウソクは真っ黒だったけど、あれはもしかしたら人を殺したことのある人なのかもしれない。医療ミスで人を死なせたって聞いたことがあったからそう思うだけで、これも確信がない。それに同じ病院で何人か黒いロウソクの人を見かけた。男性のお医者さんが一人とヨボヨボのお爺ちゃんと、不思議なのは20代や30代と思われる女性が何人かいた。これは、あとで考える必要がある。


 ロウソクの形も角ばってると性格が几帳面だったり融通が利かなかったり、逆に丸みを帯びていると無頓着だったりおおらかだったりするようだ。また、性格がねじ曲がっていると、ロウソクもねじ曲がったりしているみたいな気がする。


 あとロウソクの太さは、体の丈夫さとか関係があるのかと初めは思ったけど、もしかしたら精神力の強さと関係があるかもしれない。精神的に弱いとロウソクが細かったり、逆に精神的にタフだと太かったり。これも確信がないのでおいおい考えていくことにした。


 そんなことを目の前を通り過ぎていく葬儀の参列者一人一人の頭の上のロウソクを見ながら、僕は思っていた。



 おじいちゃんの葬式が滞りなく終わって日常の生活に戻ると、あっという間に12月が終わった。


 1年を振り返ってみると、事故にあって死にかけて、入院のせいで夏休みが無くなって、退院できたと思ったらおじいちゃんが亡くなるし、退院しても歩くためのリハビリで毎日病院通いで入院していたときと変わらない感じだった。それに、よく考えてみたら、あれほどやりたがっていた『人生ゲーム・究極版』もやるのを忘れているし……。


 色々と忙しかったので、なんか時間が経つのがすごく早く感じた。そして、そうこうしているうちに、僕は中学生になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る