No.06


 ♪ ♫ ♪



1曲完成させた後、その後いくつかそれっぽい物を作ってみたけど、1曲丸々というよりも、作りたい物とかやってみたいことをしていただけだった。


「そういえば、明日でダウンロードいただいてから4ヶ月になりますね」

「もうそんなに?」

「あ、やっぱりご存じじゃなかったんですね」


今日もソフトを色々といじっていた。彼女がそう言い出したのは、俺が手を休めたときだった。


「待って、4ヶ月?」

「どうしましたマスター、難聴ですか?それとも数字の認識できなくなりましたか?」

「遠回しに今日が最終日ってこと?それ」

「遠回しではなくド直球投げたつもりなんですが、まぁ、そういうことになりますね」


俺はケータイのカレンダーを確認する。

彼女が言ったとおり、明日でダウンロードして4ヶ月目。お試し期間は終了。製品化されたらそのうち発売され、評判が良くなかったら二度とソフトが動くことはない――二度と会うことはない。


「マスター、別のソフト使ったりなさらないんですか?」

「その予定は今のとこないかな」

「そうですか。まぁ、私は他のソフト事情は一切知らないんですけど、普通の使い方を知らないのなら難しい話でしょうね」


ルーシィは自分の後ろにある俺にはまだ難しく見える機能を指さした。見慣れたけれど、一切使えない。


「最後にレクチャーして差し上げましょうか?」


この趣味を続けるかは分からない。けれど、突発的に作りたくなることはある。今までは動かせないから手をつけられなかったが、教えてもらえるというのは嬉しい話だった。


「どうかお願いします」

「長くなりますが、大丈夫なんですか?」

「俺は暇人なんで大丈夫です」


そのまま、日付を跨ぐまでかかった。






翌日。

特に用もなく、「ルーシィ」と起動させるための言葉を言ってみた。

いつものように起動することはなく、けれどアイコンはまだそこに残っていた。ダブルクリックをして、それを開ける。白い背景が広がり、赤いAIが出てくるはずだった。昨日までは。

ただただ、白い背景が広がっているだけだった。

機械に詳しくないため、何なのかさっぱり分からないけれど、【エラーが出ました】という文字だけは分かった。


結局、俺は彼女に言われるがままに動画を投稿した。趣味でしかないし、正直0のままだろうと思っていた再生数が増えていくごとに驚いた。

誰かに『ルーシィ』というタグをつけてもらったので、多分彼女のおかげで今でもちらほらと再生数は伸びているのだと思う。


俺は試しにネットでの『ルーシィ』という音源ソフトの評判を調べてみた。色々な意見が飛び交っていたけれど、綺麗に真っ二つに割れていたように思える。


意外と機能に関しては高評価ばかりだった。まともに機能を生かせていなかった俺には、どう褒められているのか、他と比べてどれほど優れているのか曖昧にしか分からないけれど、ルーシィに少しは教え込まれていたのでいい勉強になった。


割れていたのは、『ルーシィ』の個性の件だった。

その機能は要るのか。要らないんじゃないのか。

それなら他のソフトと変わらないじゃないのか。

せめて任意のものにすればいいんじゃないのか。

いちいち口を出してくるのはさすがに腹立った。などなど、他にも沢山。


無我夢中でそれらを見終えた俺は、突き動かされるように物置に向かった。


ピアノを嫌った俺を気遣って、母が光る鍵盤として有名の子供向けの電子ピアノを押し入れにしまい込んだのを思い出した。


さすがに壊れてしまっているかと半ば諦めながらそれを部屋に持っていき、コンセントを挿して、電源を入れた。

見つけたと同時に、買った当時ろくすっぽ使っていなかったという後ろめたさを掘り返した。だがありがたいことに、まだ音を鳴らしてくれるようだった。

それを狭い勉強机に乗っかるように斜めにおいて、空いたスペースに母が計算用紙の裏紙にでも良かったらとくれた書き損じありの五線譜を置いた。


そういえば、ダメ元でダウンロードした曲を作れるソフトがあったはず。

シャーペンを握ったままPCを起動させ、確認する。


3ヶ月間使っていたソフトとは少し違ってはいるけれど、レクチャーしてもらったおかげで手探りだけれどなんとか打ち込めそうだった。

でも、これで仮に曲が出来たとしても、声がない。音源がない。


それでも、とりあえず作っておこうと思った。



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