No.04
♪ ♫ ♪
彼女と出会って3日目のことだ。
いやはや連休というものは素晴らしい。あわよくばこの3連休は新しいソフトに費やそうかと思ってはいたが、本当にその通りになってしまった。
口がよろしくない彼女には「また来たんですか、お暇ですね」と起動時に挨拶がてら言われた。口はよろしくなくともわりと素直なのか、それともそこまでは複雑にプログラミングされていないのか、どこか楽しげに言うのだから憎めないというか腹立たしくない。俺が割と気長だという理由もあるだろうから、一概にはそうとは言えないけれど。
要は俺には割と『勝気』の個性はあっていたということだ。
おしゃべりな性格ではないので、彼女から話を振ってくれることも割とありがたかったりする。彼女にはそんなこと1ミリも伝わっちゃいないだろうけれど。
「とりあえず、『再生』」
「イエス、マイマスター」
「……その呼び方はどうにかならないの?」
「というと、『マイマスター』という呼び方のことですか」
「……まぁそうですね」
「うーむ」と彼女は考え込む。
「俺よりも君の方がすごいんだから、皮肉みたいでね……ちょっと」
そんなことは深く考えたことはないけれど、でもそういえば説得力が増すのではないのかと付け加えたアドリブに、彼女は首をかしげる。
「おっしゃってることの意味があまりよくわかりません。私は声があるだけです。マスターのニーズにすべて応じられるわけではありません。その点、マスターは私のニーズにすべて応えてくれます。私、マスターに会わなかったら『生』きてないんですよ?」
「……、」
「本気で死にたくなるというのであれば変えますが、そうでなければどうか敬わらせてください」
ソフトである彼女の表情は割と単調で、細かい動きはあまりない。こういう話をするときは、割と真顔と定まっている。
そんなことを真顔でお願いされて、「死にたくなるのでやめてください」といえる性分ではなかった。俺は割とイエスマンだ。自負はしてる。
「……お好きにどうぞ」
「じゃあお好きにさせていただきますね、マイマスター」
「はいはい、『再生』」
「イエス、マイマスター」
再生というと、彼女の装備が変わる。普段の格好にマイク付きヘッドホンが装着させる。その格好がうち込んだ曲を再生するときの合図だった。
「あ、声の種類とかリクエストあります?」
「とりあえずはまだよくわかんないから、ルーシィの得意な声で」
俺がそう言うと、「ラジャ!」と返した。
そんな返答を聞いたことはなかったので、一瞬面食らったが、彼女の笑顔を見る限り嬉しさのアピールだろう。彼女のことが大体分かるようになってきた。
そんなに歌いたかったのだろうか?なんて考えていると、イントロが流れ出す。
俺が無知のままくみ上げた曲で、そこから彼女といろいろと工夫してそれなりの形になった。人様に聞かせられるようなものではないけれど、自己満足具合としては上出来だと思う。母が音楽家であることがどれほど影響しているのかしらないが、ただの趣味でしかない。こうしてとりあえず形になっただけで、もう万満足だ。
スゥ……、とブレスが入り、彼女が歌い出す。
機械らしさはないけれど、不思議と人間ではないと分かる。滑らかに歌い上げるけれど、キツいと思わせないところとか、裏返る様子が一切ないとか、抑揚にかけるとか、そういうところでほんの少し機械なのだという片鱗を見せる。
今あるところまで歌い終わると、彼女のマイクが消える。再生が終了したということだ。
「ルーシィさん、割とハイテンポの曲好きでしょ?」
「そうなんですか?」
「あれ、違う?」
「いえ、私は自分でそういうの分からないので。でもマスターがそうおっしゃるのならそうなんでしょうね。他に何かありますか?」
あぁそれならね、と俺はマウスを動かしなんとなく気になったポイントを示す。ルーシィの赤い目がその動きを逐一追ってくる。
改善点。変更点。工夫点。その他諸々。
俺はルーシィの意見を聞きながら手を加えていく。
歌ってもうだけのソフトという認識は、最早俺の中にはなかった。
相棒とかパートナーとか、そんな感じ。
……相手は画面の中にいるけどさ。
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