空洞です

歌から出た話。

今回はゆらゆら帝国の「空洞です」を。


「待ち人と」悩んだ挙句、ホーンが憎い演出で実にいいので「空洞です」を推した。


「なぜか街には大事なものがない それはムード 甘いムード

意味を求めて無意味なものがない それはムード とろけそうな」


ゆらゆら帝国は、一人で聴くのが似合う。

不安に駆られたり、寂しかったりしている夜に一人で聴くのが似合うのだ。

歌詞と音がコーヒーとミルクのように溶け合って、水のようにすっと耳から沁み込んでいくのだ。酒と表現した方が、もしかしたら正しいのかもしれないけれど。


「俺は空洞 でかい空洞 いいよ くぐり抜けてみな 穴の中

さあどうぞ 空洞」


大学生のような、何をしていいかわからなくて悶々としていて、それでも何かしなきゃとエネルギーが有り余ってる時期に聴くと、(合法的だから)誰にも責められない分自分の中でめっちゃ苦しくなる、そんな喪失感を抱えているギリギリの不安定さが倍増しそうで危ない気がする。


「『待ち人』聴いてるとさー、向こう側の境界をやすやすと超えちゃった人なんだなーって俺は思う。」という話を知人は言う。ポップな曲調にほの暗い歌詞というアクセルベタ踏みの感じが狂気を想像させるのは、わからなくもない。


フォークのようなわかりやすい歌詞に異様な陶酔感のあるサウンドが乗っかってくるのがゆらゆら帝国の特徴だと思う。

「縛る歌」だなという感覚はある。まるで芥川龍之介の小説のように。

そのくらい、言葉に指向性、というかベクトルを感じてしまうのだ。


「言霊の力とかオカルトじみている」と本来、日常の世界では鼻で笑い飛ばさなくてはならないものが、坂本慎太郎の世界ではそれが嘘ではないような気がしてくる。

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