Minor Swing

歌から出た話。

今回は、インストを。

Django Reinhardtの「Minor Swing」を。

「食事の際のBGMで昔はかかっていたんだ。だからこの人の演奏は抑えているんだよ。」

と聞いたのは、千日前の喫茶店でのことだった。

きっと、1930年代のカフェ・サロン文化のことを指していたのだろう。

今考えると、なんて豪華なんだろうと思う。

話は戻るが、一音一音に艶があるのだ。

バイオリンのStéphane Grappelliの音と混ざり合って溶けていくのが

コーヒーに混ざるミルクのようで心地よい。


この曲を聴きながら濃く淹れた苦めのコーヒーを飲むと

感覚だけが思い出のその日に戻る。

ラタキアの葉の匂いがする、冷たい雨の夜の喫茶店。

ブラックがいいというお店なのに、コーヒーの苦みに慣れなかった私は

いつもより砂糖をたくさん入れて、ぐるぐるといつまでもかき混ぜていた。


心を悟られまいと、出掛かった言葉と一緒にコーヒーを飲み干したこと。

いつの事だったかはまだ、忘れたことにしておきたい。


きっと、忘れたくない夜だったのだろう。

最近まで聴かないでいたのは、そのせいかもしれない。

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