ただのダメリーマンだった僕がヒーローをやらされたらこうなった。

満月 愛ミ

P 01

 例えばの話。

 ありえないことが次々と起きるなんて、何かの前触れなんじゃないかと、つい僕は思ってしまう。


 その日の朝目覚めた僕は、重たい身体を起こして仕事に行くはずだった。行きたくもない職場に、今日も行かされるんだと。

 だけど今日は何かがおかしい。起こした身体が、ものすごく軽い。


「調子いいな、今日……。いや、良すぎる。良すぎるぞこれ……。どいうことなんだ?」


 僕は昨日の出来事を振り返るけど、思い出したくないことばかりが僕の中をけたましくかけめぐるものだから、いったん考えるのをやめようと首を振った。


 とりあえず顔を洗って、冷蔵庫からコンビニ弁当を出して机に置く。誰にも「いただきます」を言う相手がいないから、ただただ胃に流し込んだ。

 食べ終わったあと、身支度をして玄関に立つ。この玄関より外に出なければならないと思うと、憂鬱だった。ドアノブに手をかける。

 が。


「ん?」


 開かない?


「あれ?」


 押しても、引いても、びくともしない。あ、鍵掛かったまま回しちゃってたとか。


「……あれ?」


 回らない。おかしいな、一体どうなってるんだ……?


「こんのっ!!」


 遅刻してもまずいしとイラついてきてしまって、力任せに鍵をひねった。


「え……!?」


 それは、こんにゃくのような、弾力のあるものをひねったような感覚だった。


「なん、だ……?」


“ヴー、ヴー、ヴー……”


 僕が混乱していたそのとき。ポケットに入れていたスマートフォンが震えだし、全身が震えるほど驚いて手に取った。ロックを解除して、出てきた見覚えのないホーム画面に僕はさらに驚いてスマートフォンを投げてしまった。


 だって、あり得ないよ。そこには可愛すぎる、アニメヒロインのように顔の整った美少女が僕へ向かって微笑んでいたんだ。

 まだ若干幼く見えるけど……中学生か、高校生か?


『やっほー。あれ? やっほー? おかしいなぁ。誰もいないはずないんだけどな』

「は、は!? なに!?」

『ん? 声がした。どこー? どこにいるの?』


 あり得ないったらあり得ない。あんな美少女との面識は僕にはない。

 確かに最近、仕事がうまく行かなくて寝不足になってはいたけど、うん。どう考えてもおかしい。


『ね! 聞いてるの? もー!』


 そのあと、何度も「もー!」を連発された僕は意を決して、おそるおそるスマートフォンを手にとった。


『あ! やっと目があった。ねぇ、あんまり時間ないから話進めていい?』


 画面に映る少女とは確かに僕と目があっていた。やっぱり、少女のような高貴すぎる種族が僕の人生に現れるということがそもそもおかしすぎるんだ!

 いつの間にか、僕は夢でも見てるのだろうか。


「こんな美人な子と話せるなんて! でも夢ならいっそ覚めないで!」

『……あなたってデータ通りのおバカさんね。夢じゃないから時間無いって言ってるのっ。とりあえず、凪月流都なぎつき りゅうとくん。25歳までたどり着いていたあなたの命はあとわずかなんだよ?』


 へ?


 どうして少女が僕の名前を知っているのかとか、意味も分からず、僕は体中に訪れた寒気にただ身震いをする。


 ありえないことばかりが次々と起きるなんて、何かの前触れなんじゃないかとか。まさか僕の命に関わることだったとは夢にも思わなかった。

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