二章 いまだ消えない寵姫のうわさ_2
それから数日のあいだ、ヴァルディールは生死の境をさまよった。
エルンストから聞いたところによると、ヴァルディールが口にした焼き
その焼き菓子を書斎に運んだとされるメイドは、すでに地下で息絶えていた。服毒自殺との見方だという。
ヴァルディールの意識が回復したのは、まだ昨晩のことだ。
(──暗殺……か)
暗殺
彼は、命を
「ユーリア、ひどい顔色だよ。きちんと
「
あれからの数日間、いつも仕事の邪魔をするようにあらわれ、ひとの机に
こうしてつきあわせた顔は、どちらもけっして明るくない。そのことにようやく気がついたように、シモンが
「そうだね。おたがいさまだ」
ふたりは一時
アームチェアに移動すると、メイドが
「こんな
「つきあわせただなんてとんでもない。足をひっぱっているのは私ですから」
巡幸礼とは、オーバーラント公が領内の各
(とはいえ、あんな事件があったばかりだもの。中止、もしくは延期って可能性のほうが高いだろうけれど)
手を
「きみは足なんてひっぱってない。むしろ入ったばかりなのによくやってくれてるって感心してるくらいだ。そろそろ
「ご存じだったんですか?」
「そう、ご存じ……って、あのさ、そろそろ敬語はやめてほしいな。僕は今年十九、きみは今年十八になったんだったね。年も近いんだ」
「ええと、善処します」
「いや、その時点で善処してないから……。とにかくさ、もっと仲良くしようよ」
シモンはそれからすこしためらうようにして、じつはね、と切りだした。
「こんなこと言うのはなんだけど、きみがとつぜん
うわさどころか当たっている。
「なんでも、そうして
(全面的にはずれてるっ!)
思わずカップを粉砕しそうになって、ぷるぷる
「ごめんごめん、
「今は……」
「手練手管をつかってヴァルディールさまを
「シモンさん」
ここにもいたのだ。わかってくれるひとが! そう思うと身を乗りださずにはいられない。
「それにきみは……」
そのときだ。ノックの音が
声
なんだか
「ユーリア姫、殿下がお呼びです。はやくおいで下さい」
「ヴァルディールさまが?」
なんだろう。個人的に呼びだしを
「えっとじゃあ、とりあえず公の容体を
ユーリアはシモンにそう告げて部屋を出た。
「あのう、ヴァルディールさまはもうお元気なんですか?」
「レディがそういうことを気にしちゃいけないな。もうお元気だから
「寝室ですか? ではまだお元気とは言えないのでは?」
なのに人を呼びつけていいのだろうか。安静に寝ていればいいのに、と言うと、エルンストはくつくつと笑った。
「いやいや、そういう意味じゃないから。いいかい、女性を寝室にお求めなんだよ。最低でもそっちは元気ってことさ」
ユーリアはぎょっとした。それはもしかして下品な意味では!? だから、レディがそういうことを気にしちゃいけない!?
そういえば、部屋を出る時にシモンがなにか言いたげな
「あの、やっぱり日をあらためてお
「王子殿下が
エルンストは
ユーリアはしばらく
「──ただし、身じたくを整えてからでも構いませんか?」
「湯あみの用意でも
エルンストは
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