07.タフな初仕事

「ここがメギンギョルズの孤独の要塞か」


 フューリアスの言葉は酷く辛辣な色を帯びていた。

 ルーキーとフューリアスが見上げるのは、どこにでもある二階建てアパートだ。雨の中、その姿はより一層古ぼけたものに見えた。その二階の角部屋に稲田は起居しているという。


「本当にここが?」


 ルーキーは訝しげだ。ごみごみとした繁華街の中の、うら寂れたアパート。こんな場所に果たして元ヒーローがいるのだろうか。

 フューリアスは眉を上げ、本気で言っているのかとその顔で語ってみせる。


「どんな場所だろうとおかしくはない。分かってるんだろうな? それとも自信がないか」

「そん……ッ!」


 反論しかけてルーキーは立ち止まる。自信。果たしてあるだろうか。いつもならあると断言できた。だが今回は。こんな結果は初めてだ。

 こんな、自らの価値を揺るがすようなことはなかった。自分ならできると証明することこそがルーキーの自身に課したルールだというのに。


 PDAに目を落とす。電子的に再現された儀式と呪文行使。ルーキーの自信作の一つだ。どんな魔術師より早く、どんな魔術師よりも正確にそれを行う。そのはずだった。


 ルーキーの思考を、不意のフューリアスの舌打ちが遮った。苛立たしげで耳障りな音。見上げたルーキーをフューリアスの視線が迎え撃つ。


「自信がないみたいだな」


 冷ややかに見下ろすその目。それはつまり、ルーキーにとってはお前は取るに足りないと言われているのと同じこと。軋むほどに奥歯を噛みしめた。


「だが、お前のどう思っているかは関係ない。今は俺に従ってもらうぞ、ルーキー」


 こいつは確かめる必要がある、そう口にしてフューリアスは再度アパートに目を向けた。


「……はい」


 返事は力ない。だがフューリアスはそれを咎めなかった。


「戦闘になる可能性がある。できる限りの準備をしておけ」


 それからコートを、と言われてルーキーはのそのそとコートに袖を通した。銀弾のエンブレムが重い。

 そうして、眼鏡を掛ける。できるだけのことをしよう、とルーキーは意識した。パラダイムシフトの見せたメギンギョルズの映像。。ほぼ同一人物と見て間違いない。

 一度見たものを、二度取り逃がす訳にはいかない。対策は、さほど多くは無いものの。相手は超能力サイオニクスの使い手だ。呪祓いディスペル機先を制カウンタースペルし、千本を打つ。千本で点穴打って無力化できればよし、届かなければ白兵戦。状況を見て呪文を投射キャスト

 基本の流れを定めて、ルーキーは更に万能ベルトユーティリティベルトから取り出した網を風に流した。独りでに広がる網は、髪の毛を編み込んだ視認困難な代物だ。一度広がった網は秘術の目アーケイン・サイトを与える眼鏡抜きではルーキーにすら見ることはできない。この雨の中ならなおさらだ。それをこの小さなアパートに。ルーキーの許可無くここを離れようとするものは、自然とその網に捕らわれることになるだろう。


「大丈夫です。行きましょう」


 振り返ると、眼鏡越しの視界にフューリアスが煌めいていた。思わず目を押さえ、ううと呻く。着込み直した銀弾機関のコートはさておいて、身に帯びるだけで効果のある類いの道具の多さときたらまるでクリスマスツリーだ。もし手当たり次第にかき集めてきたと言われても信じるだろう。


「どうした」

「いえ、問題ありません」


 呆れたが、ルーキーは慎み深く口出ししないことにした。勿論傍目にはルーキー自身も大差ないのはあるが、何より他人は他人だ。


「先に行きましょうか」

「そうしてくれ。直接戦闘は任せた、ルーキー。俺は後ろから――」

「大丈夫です」


 フューリアスが鼻白んだ。ルーキーはもう一度繰り返す。大丈夫です。

 準備は既に整った。同じ轍は踏まない。それで充分だ。


 わかったよ、とフューリアスはどこか投げやりに答えてルーキーを先へ促した。


 水たまりを蹴立てて、稲田のアパートへ。錆の浮いた外階段を駆け上がる。ルーキーの靴底が鉄製の階段を叩く音が雨の中に反響した。狭い廊下を洗濯機を避けて奥へと急ぐ。

 少し遅れてフューリアスが廊下を歩く。玄関前で足を止めたルーキーを通り過ぎて、フューリアスはドアの蝶番側に陣取った。その目が戸の上に据え付けられた電気メーターを確認する。


「いるな」

「ノックを」


 フューリアスは肩をすくめ、ドアに身を寄せて呼び鈴に手を伸ばす。

 どこか間延びしたチャイムの音が響いた。押しながら、フューリアスの右手は既に銃を引き抜いている。ルーキーもその手に千本を握り混んだ。


 透視クレアボヤンスに頼るまでも無く、内側で人が動いた気配に気付いた。息を潜められるよりありがたい。本当なら中を確認しておきたかったが、透視クレアボヤンスは行使に多少時間がかかる。目標の目の前では、できれば使いたくない選択肢だ。


 一歩、二歩、薄い壁は聴勁の達人でなくとも室内の動きを読み取らせる。躊躇したらしい鈍い足取りは後ろめたさから来るものだろうか。五歩、六歩。壁に手をついて七歩、八歩。


 中の人間が、扉に近付いたのが分かった。ドアスコープから外を覗いているのだろう。壁際で息を潜めるフューリアスの姿はそこからでは窺えない。開けるか、逃げるか、黙り込むか。どうするだろう。少なくとも逃がすことは無い、そのはずだ。ルーキーはアパートを取り囲むように設置した網を一瞥し、自分にそう言い聞かせる。

 逡巡が伝わった。開けるべきかどうか悩んでいるのだろう。不安なら、とルーキーは考える。確認しなければ落ち着かないはずだ。


 果たして、鍵の開く音がした。ドアノブが回り、僅かに扉が開かれる。チェーンが金属音を立てた。


 隙間から、外を覗く目が見えた。どこか不安げな、神経質そうな目。。目が合った。相手はこちらが誰か気付いたらしい。警戒から反射的に行使しようとした念動力サイコキネシスが渦巻いている。紛れもなくヱビスのそのもの。

 ルーキーは素早くそのへと指を突きつけた。呪句を口にする。


「《ダウト!》」


 効果は覿面だ。は霧散し、この部屋の住人は蹈鞴を踏んで後ろへ下がる。先手を取った。部屋の前に立って素早く身体を旋転させる。その間にも呼吸を整え、全身に力を巡らせる。一回転する間にも身体が熱くなる。鋭い後ろ蹴りが一撃。ひしゃげた扉は蝶番から吹き飛んで、部屋の中へと倒れ込む。


「シルバーバレットです!」


 言い終わるより早く、ルーキーの手は千本を投擲している。回転の威力も重なったその一投は狙い違わずメギンギョルズ=稲田へと飛来する。経穴に突きたてば、もはや彼は何もできない。


 必勝の一撃は、しかし容易に打ち破られた。瞬時に膨れ上がった肉体が経穴の位置を変えさせた。突きたった千本を引き抜いて、元ヒーローの目に怒りが閃く。

 なるほど、とルーキーは頷いた。ヒーロー時代の怪力。肉体の活性化、あるいは強化。力の帯メギンギョルズの名の通りと言うわけだ。その強大化した肉体が足踏みを一度。ぐらつくような感覚と同時に扉が跳ねた。


 それを盾に、メギンギョルズは外へと突貫する。一瞬足下のふらついたルーキーは辛うじて壁を蹴って屋根の上へ。フューリアスがなんとか一歩距離を取るのが見えた。


「どうやら抵抗するつもりのようだ」


 呆れるくらい今更なことをフューリアスは言ってのける。お願いだから精々踏み潰されないようにしていて欲しい。ルーキーの祈りをよそに、飛び出し彼女を目で追ったメギンギョルズが扉を大きくスイングした。そのまま投げ飛ばされたドアはフューリアスを手すりと挟み込む。身体をめり込ませて手すりが大きく歪み、フューリアスが階下へ落ちるのが見えた。せめてもの報復に放たれた弾丸は、メギンギョルズをかすめることしかできていない。フューリアス自身も少なくとも致命傷ではないとルーキーは判断した。銀弾機関のコートがある。それに、フューリアスが仕込んでいた護符の類いが仕事を果たしてはじけ飛ぶのも見えた。


「シルバーバレットに手を出しましたね」

「うるさい……!」


 癇にさわる声。酷い怒りようだ。刺すような怒りを感じる。元ヒーローというよりヴィラン。そういった風情。


 再度、思念が渦を巻いた。同時に跳躍、巨体がルーキーを襲う。側転して距離を取りながら姿勢を整える。同時に叩きつけるような衝撃。耐える。今念動力サイコキネシスを打ち消しながら闘うのは分が悪い。合わせるだけの余裕はなさそうだ。幸いなのはメギンギョルズがまだこの能力に不慣れらしいこと。狙いが甘い。力を絞れていない。これでもしたりすれば勝ち目は無いところだった。そうなれば撤退の文字しかなかっただろう。


「異能を用いた女性への暴行、市街への破壊行為、それからシルバーバレットへの攻撃」


 ルーキーはメギンギョルズの反応を見る。僅かにでも自分の立場を理解して貰えれば幸いなのだが。しかし案の定、今のメギンギョルズの目には攻撃性だけが見える。朝の五行刀のようなジャンキーだろうか。ルーキーの知識では結論が付かない。

 ルーキーは溜息、それからメギンギョルズを睨む。風よ、疾風よ。小さく呪句を唱え、自身を加速ヘイスト。全力以て駆け出して、立て続けに三拳繰り出した。たかが小娘の一撃と侮るなかれ。いずれにも魔術の込められた手袋越しに絶大な威力を加え、なまじのことでは耐えられない。

 二手まではメギンギョルズが見事躱した。ならば三手目。下から突き上げるような一撃、外しかねてメギンギョルズは腕で受けた。堅いゴムのような感触。なるほどヒーローとして活躍できるだけの実力はあったらしい。これが巨人の一撃でも、ともすれば耐えられただろう。しかしルーキーの一撃はただ物理的なものではない。威力がはじけ、メギンギョルズの腕を内側からズタズタにする。その顔が歪んだのを、ルーキーは確かに見て取った。


 廊下を蹴り素早く距離を取る。一度床に手をついて、ソコを支点に更に身体を跳ねさせる。アパートから一つ離れた隣家の屋根に着地。視界の隅に無様に潰れるフューリアスが見えたが、今はどうしようもない。


「よって、捕縛します」


 はっきりと告げる。念動力サイコキネシスと怪力。タネは割れた。楽な仕事とは言わないが、打ち負かす筋道の一つもある。メギンギョルズは呻き、ルーキーに打たれた腕を押さえる。


「放っておいてくれ!」


 叫び。だが生憎そうはいかない。犯罪者を野放しにするわけにはいかないからだ。

 だが、メギンギョルズがこの場を離れるべきだと考えてくれるなら悪くない。今の距離も、半ばはそのためにある。ルーキーはあえて見えるように千本を抜きにかかる。この距離なら、呪祓いディスペルする余裕もある。


「オレは……」


 メギンギョルズが呻く。


「オレはいらないんだろうが! なら、何故今更!」


 爆発的に力が広がり、周囲が歪んだ。カフェで見たものと同じ、全方位を襲う念動力サイコキネシスの爆発だ。同時にメギンギョルズは跳ぶ。ただし方向はルーキーとは正反対。逃亡を狙うつもりだ。ありがたい。ルーキーは迫る波を指さし、呪句を唱える。消え失せ、霧散する力。開けた視界の中でメギンギョルズの背が離れて行く。ルーキーは思考をトリガーにを引いた。

 網の反応は迅速だ。引き絞られ、メギンギョルズを捕らえにかかる。更に網を操り、ルーキーはメギンギョルズをアスファルトに叩きつけた。


「後から来てください!」


 フューリアスに向かって叫ぶ。果たして聞こえたかどうか。しかしどちらにせよもう既に関係ない。メギンギョルズは文字通り袋のネズミ。あとは無力化する手段などいくらでもある。


 屋根を蹴り、路上に出る。足下には網に絡め取られ、もがくメギンギョルズの姿。叩きつけられた衝撃はそれなりにメギンギョルズにダメージを与えたらしい。網を引くと、蓑虫のようになったメギンギョルズがさらにもがく。碌に身動きもできないらしい。


「言っておきますが、これは切れませんよ」


 網越しに、怒りに染まる瞳が睨み返した。だが怖くは無い。網を軽く操るだけでその怪力もまともには扱えない。念動力サイコキネシスにしたところで、この状態ではいくらも制御できはしない。


「少し静かにしていただきます」


 過剰な力は必要ない。ルーキーは剣指を作り、メギンギョルズを点穴した。いや、しようとした。


 しかし現実には、その手は途中で止まっている。ルーキーはこの瞬間呆気に取られていた。メギンギョルズの精神の迸りが、まさか念動力サイコキネシス以外の形を取るなど。


 ルーキーの精神内側が揺さぶられる。激情。怒り、嘆き、どうしようもない感情の迸り。これは、メギンギョルズのものだ。

 視界がカッと赤く染まる。自分のものではない感情に押し流されて、瞬間平静さを見失った。――馬鹿な、この後に及んで新しい異能を見せる? そもそも念動力サイコキネシスにしろ精神感応テレパシーにしろ、人為的に身につけるのは難しい。隠していたのか、それとも後から目覚めたのか。何にせよ許せない。こんな理不尽など許すことはできない。


 ルーキーは拳を掲げていた。後先も考えず、目の前のメギンギョルズを殴りつけようとした。

 そして、再度理不尽な出来事が襲った。


 メギンギョルズはその刹那、消滅した。空間跳躍ジョウントだ。あり得ない。あり得ない。あり得ない。体勢を崩したルーキーはコンクリート塀にもたれかかって息を整える。精神への汚染は薄れかけ、冷静さを取り戻そうとしていた。しかしこれはありえない。念動力サイコキネシス精神感応テレパシー空間跳躍ジョウント。いずれも精神によって現実を書き換えるモノではあるが、素質に大きく依存するものだ。そんな素質があるなら、メギンギョルズが華の無いマイナーヒーローと呼ばれることはなかっただろう。


 困惑するルーキーの目の前で、不意に何かが出現した。肉体だ。メギンギョルズの。バラバラの断片になったもの。メギンギョルズと目が合った。空間跳躍ジョウントの制御に失敗し、繋がりを失ったのだ。同時に再びメギンギョルズが消滅し、再度姿を現す。今度は人間の形を取り戻している。


「静かに」


 大きな手が、ルーキーの喉に伸びた。困惑から脱し切れていなかったルーキーは身動きも取れず、メギンギョルズに押さえ込まれる。力強い手に喉首を締め上げられて、持ち上げられる。息ができない。焦燥と危機感に突き動かされ、その手を無理矢理に引き剥がそうとするが叶わない。


「静かに、していたんだ……オレは」


 それはルーキーに向けられたモノでは無かった。もっと広く、もっと漠然としたものに向けられた言葉だ。ルーキーはゾッとした。まずい。


「お前達がいらないと言うから! 必要ないというから諦めたんだ! もう何も無いって言うのに!」


 メギンギョルズはルーキーを見ていない。どんどんと強まっていく手の力は、ルーキーの身体から少しずつ活力を失わせていく。


「オレは諦めたのに! なのにどうして! どうしてあいつはまともなフリをしていられるんだよ!」


 絶叫。メギンギョルズの激しい怒りは、いつしかその顔に涙まで浮かべさせていた。だがルーキーには分からない。何の話だ。どうしようもない理不尽な暴力に、どうしようもない理不尽な理由が付いているだけでしかない。むなしくルーキーの眼鏡が落ち、アスファルトに跳ねた。


 しかしどうしようもない。このまま激しい怒りに、逆らえず死ぬ。負けて死ぬほかはない。ルーキーは奥歯を噛みしめた。ジャケットにはいくらでも道具ツールが入っているはずだった。対応はできるはずだ。しかし、まとまらぬ意識がそれを使うことを不可能にしている。諦めたくは無い。ルーキーの頬にも、涙が伝った。

 同時に、衝撃。ルーキーは見た。フューリアスだ。無謀にもメギンギョルズに体当たりをしかけ、銃を振り上げている。そしてそのスパイクのついた銃把を一撃。メギンギョルズの側頭部から血が流れた。

 更に銃口をメギンギョルズの腕に押し当て、三射。異能で拡張された肉体はそう簡単には壊れない。だが。


 拘束が僅かに緩んだその瞬間、ルーキーは息を吸った。胸いっぱい、それで充分だ。メギンギョルズの手を取って、その胸板を蹴り上げる。威力はさほどでも無い。しかし何とか距離は取れた。更に壁を蹴って、メギンギョルズの視界から逃れようとする。


 これは、想定よりも危険だ――勿論、その危険は今まさに味わった。。今度こそ、こんな危険物を取り逃がせば何が起こるか分からない。ルーキーは万能ユーティリティベルトを手探った。この空間に繋ぎ止めるまじない。それをぶつけて、少なくとも空間跳躍ジョウントは防がねば。


 だが、遅い。先に動いたのはフューリアスだった。牽制の三射を放ち、メギンギョルズとルーキーの間に飛び込んだ。同時にメギンギョルズの拳がアスファルトを殴りつける。

 揺れた。なんたるパワーか。そしてアスファルトがめくれ上がる。フューリアスの舌打ち。ルーキーは顔を覆い、飛来物を受けた。


 そしてそれ以上の追撃は無い。


 ルーキーの目の前でフューリアスがよろめき、ふらふらと路地の壁へともたれかかる。フューリアスがいなくなっても、メギンギョルズの姿は無い。どこかに空間跳躍ジョウントしたのだ。


「……そんな」


 あんなものを取り逃がしてしまった。一体何が起こる? ルーキーは想像で自らの息を止めそうになった。メギンギョルズの、あの目。正気ではない。

 震えるルーキーに、フューリアスの笑い声が投げかけられた。


「……ずいぶん、タフな初仕事になっちまったようだな。ルーキー」


 ルーキーはフューリアスへと目を向けた。決然、そのような冗談を言っている場合ではないと文句を言おうとする。

 しかし、できなかった。フューリアスもまた疲弊している。ルーキーをメギンギョルズの最後の一撃からかばったせいか、もはやぼろきれのようなものだ。


「……あいつ、案外ブルージョウントで消えて無くなったかもな」


 重ねて、つまらない冗談を口にする。希望的観測にもほどがある。本気で言っているなら、きっと脳のダメージを心配しただろう。だが、その目の思わしさはそうではないと告げている。


「……何故庇ったんですか」


 思いかねて、ルーキーはそんなつまらない質問を投げかけた。


「他に何か無かったんですか! そもそも体当たりに、あんな至近距離からただ銃で撃つだけなんて! まるで……」


 言いかけて、ルーキーは何かに思い当たったような気がした。まるで? まるでなんだろう。そう、かのように。


「まさか……あなた」


 ルーキーが言葉を切っても、フューリアスにはその先が分かったらしい。わざとらしく眉を上げて、力なく笑う。


「今更だな。そうとも、そうさ。……だから、悪い、ルーキー。救援を呼んでくれ」

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