第3話

「おいお前、これからってときに......」


「だってその女の子の能力じゃ私、やられる一方なんだもん。だからこーさん」



 本当に自由な奴だ。ここは一発でも殴ってやりたいところだが、あいにくそんなケガは俺にはとっくに消えている。納得して引き下がるしかない。



「シミル。こいつを拘束できるか?」


「あーそういう趣味? あんまり子供の前でそういうのを見せるのは......」


「うるせぇ! おとなしく捕まってろ!」


「はーい」



 彼女は敵に氷の拘束具を付け、炎を鎮火した。とはいえこいつの能力がいまだによくわからない。1人に1つの能力じゃないってことか? とはいえパンチは努力すればいくらでも強く......


 いや聞いた方が早いか。素直に教えてくれないのはもう学んだが、遠回りの草原を歩きながら俺は彼女に問いた。



「お前の能力はなんだ?」


「教えるわけないじゃーん。勉強不足ぅ?」



 腹が立つ。できることなら殴ってやりたいところだったが、俺の拳をシミルが止めた。仕方ない。ようやく素直でないにしろこの世界に詳しそうな奴と出会えたんだ。この機会を逃すわけにはいかない。



「お前はこの周辺に詳しいんだろ? 一番安全な街まで案内しろ」


「嫌。私は奴隷になった覚えはないし」


「同じようなもんだろうが」


「別に今の状態なら問題ないもん。タブーコールを使えば逃げるのは簡単だしね」


「はぁ!?」



 ならなぜ逃げない。といってやりたかった。が、このままその考えに至られても困る。せっかくの情報だ。とれるなら取れるだけもらっておくのがベストだ。



「それじゃあお前の能力について教えろ。それと、能力は1人1種類に固定されていることに対してもだ」


「能力はパス。バレたら逃げられなくなっちゃうし。2つ目の質問だけ超絶特別に答えてあげる。今まであった人族は全員1種類だけの能力を使ってたよ。ついでに言えば2種類の能力を使ったやつの目撃情報はなし」


「なるほど。ということは2種類の能力を持つ人物はいないってことなのか?」


「まぁそういうことでいいんじゃない? 別に能力がいくつあっても相性が悪ければそれで終わりだし」



 彼女が言っていることは一理ある。とはいえ念のためにシミルに手錠を強化してもらい、おまけに羽も凍らせた。とはいえあまり無意味なことはなんとなく理解していた。



「ところで、どうして俺たちを狙ってきたんだ? 悪いが金目のものなら持っていないぞ。バッグはわんさかしているがな」



 彼女は俺の顔を見て睨みを見せた。が、手錠に抵抗を見せたわけではなかった。にしてもエルフに悪魔。ここまで簡単に特殊族に会えるなんて思ってもみなかった。



「別にそんなのに興味を持ったわけじゃないし。私は珍しい能力を持った人物を探しているだけ。そしてその人物を殺して......あ、やっぱなんでもない」


「ああ。これ以上は必要ない。言わなくても十分すぎるほどに理解できたからな」



 俺が1人だけだったら、こいつはいつまでも俺を殺そうと努力していたわけか。とはいえどうせ俺は死なないのだから、意味はないけどな。


 やっぱり俺の直感に間違いはなかった。シミル・パルテロッカ。彼女は俺にとっても脅威であり、何より彼女にとってもそうらしい。おかげで危ない目に合うことも少なさそうなのが一部喜びだが。



「そういえばお前の名前はなんていうんだ? 正直に言ってみろ」



 とはいえこいつの言動などなに1つと信用してなどいない。悪魔は嘘をついてなんぼだ。さっきの性格から嫌でも思い知らされた。



「バキリア・ボルベスタよ。1年もしない間にアンタたちはこの名前におびえるようになるわ」


「そうか。ならとっとと凍らせておこう。頼むシミル」


「ふざけんじゃないわよ! そんなことしたら私の本気を見せることになるわよ、それでもいいの?」



 少しだけ好戦的ではないように思える。だが嘘をついている様子はない。俺はシミルへの命令を取り下げ徒歩を再開した。とはいえさすがに時間がかかりすぎているか。



「シミル、次の町まではどれくらいかかりそうなんだ?」


「あ、あの......」



 まさかと冷静な考えが今更よぎった。ひょっとしても何もない。14歳としての行動としてもおかしくない。むしろ地図があればいいくらいだ。



「アハハハ! あんたら地図もなしに歩いてたわけ? よくそれで私の名前を聞くなんて芸当ができたものね! 私を見定める前に自分たちの道を見定めなさいよ!」



 俺は笑うこいつを思いっきり睨んだが、むしろ笑いが増えるだけだった。14歳の彼女ならカワイイで済むが、俺ならただのバカで終わる。


とはいえこいつに頼るしかないか。バキリアが周辺事情に詳しいかは定かではないが。


 3日間分の食糧もある。最悪は帰ることも......ないな。



「お前を解放することを条件に、街まで案内するのはどうだ? お前にとっても悪い交渉じゃないだろ?」


「だーから言ってるでしょ。私が頑張っても、彼女に手を出されたらジリ貧で負けるんだってば」



 頑固な奴だ。とはいえ疑うことを忘れていないその姿勢は少しだけ学びになる。シミルは俺がうなずいたことに疑問を感じていたが。



「ならシミルには手を出さないことを条件に加えてならどうだ?」


「ふーん。あんたってロリコン?」


「関係ないところで遊ぶな!」


「ロリコンってなんですか倫也さん?」



 純粋無垢でなんでも知りたがりの彼女に冷静さを取り戻させるのには苦労したが、バキリアはそれに納得し、俺たちを王都と呼ばれる場所へと案内してもらうことになった。


 とはいえ王都か。この周辺の王様はどのような人物なのだろう。金に貪欲で人を物としか見ていないとか?


 優しさを大切にし過ぎて活動資金をばら撒いているとか?


 さすがに極端すぎるか。


 ただわかるのは王都が悪魔を認めているということだ。俺の予想じゃこいつは嫌われていそうだが、今回はその限りでもないらしい。王様はきっと寛容なのだろう。


 俺たちはテントを張り、森の中で夜を過ごすことにした。とはいえ安心はできない。目の前に敵がいるのだから。

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