第4話
「ところであんたらの能力って結局のとこ何なの?」
「何でそんなことをお前に教える必要がある? 関係ないだろ」
女はこちらに不敵な笑みを浮かべた。けれど気にはしない。こいつの表情などどうだっていいのだ。
「あなたの能力はどういったものなんですか?」
純粋無垢な彼女に善悪の判断が付いていないらしい。思わず口をふさいでしまいたいところだったが、ここは嘘でもついて誤魔化そう。悪魔だから聞きなれている可能性もあり得なくないが。
「んー、実際に見てもらった方がわかりやすいかも。見てて」
えらく素直になったような気がする。いや、俺に対して確実に偏見の壁が生じているだけか。
彼女は鹿と彼女の作った手錠を指さし息を吸い込む。
「召喚士の命令に従い、わが下僕となれ。禁忌召喚!」
鹿は氷に飛び込み青色の光に包まれた。目の前にいたのは、さっきの炎の鹿そっくりの氷の鹿が姿を現した。俺たちの口は開いたままだった。
「そのままここにいるゾンビ野郎に襲い掛かれ!」
「オォーン!」
「ふざけんな!」
「冗談だって。召喚解除」
その声と共に鹿は元の角の色に戻り俺たちの目の前から姿を消した。これがバキリアの能力か。禁忌召喚。何が禁忌かは今のところよくわからないが、自分で戦わずに済むのはうれしいかぎりだろうな。
シミルは目を輝かせていた。
「すごいです! どんな動物にもできるんですか?」
「まぁ、できるかな。人はまだやってみたことないけど」
いやできてくていい。俺と氷を合体させたところで弱点が増えるだけだ。せっかくの俺の能力も無駄になってしまうしな。
彼女はそう言うなりやっぱり俺を見た。が、睨みをきかせたら彼女は何も言わなかった。素直になってきているのか?
「アンタの能力はなんなの?」
「私は氷で......」
「スキルネーム、決めてないの?」
「スキルネーム? なんですかそれ?」
「スキルネーム知らないの!? ああ、そういやアンタ平和なエルフの出身だったわね」
スキルネーム? 中二病みたいなやつか? 暗黒の右腕が......封印された左目がうずく......とかか? まさか悪魔にもあったとはな。
「アンタ、絶対変なこと思いついたでしょ」
「そんなわけないだろう。それでお前の言い分はどういうことだ?」
「要は連携が大切ってことよ。スキルネームを聞けば、大体長い説明を聞かなくても敵の素性が理解できるでしょ? その感覚よ」
俺が首をかしげていると、彼女はやれやれといった表情で俺を小馬鹿にするような笑みを見せ、地面に炎と水の絵を描いた。
「例えば彼女が炎の敵と対峙している場合、彼女は圧倒的に不利な状況になる。けれど、水の敵なら話は別。アンタはその眼と耳と感覚を使って、その敵がどんな能力を使用するのかを彼女に伝える。彼女はそれを聞いて迷うことなく攻撃ができる。水使いか水体か、水拳とか、名前を挙げることでその人物がどんな人物、身体能力に優れているかも伝えることができれば完璧ね」
やけに丁寧でわかりやすかった。本当に悪魔なのかと疑いたいくらいだ。とはいえ俺の中ではなおのこと疑いが晴れてはいなかった。
絶対にこいつは裏切りを見せる。俺の考えはより彼女を深く疑った。
「お前なら、その禁忌召喚を使うから、禁忌召喚士と呼ぶわけか」
「
彼女の考えに俺も賛成した。確かに自分のものだけはかっこよくありたいのはわからないでもない。だが、俺の能力を名前にするとしたら、どんな名前になるんだ?
「バキリア、俺の......」
「私の能力を名付けてください!」
彼女の輝く目には誰にも逆らえなかった。おとなしく俺は2人のガールズトークを見守った。
「そうだなぁ......氷で薔薇を作ってたから、
おいおい、いくらなんでも部分的すぎるだろ。お前を例に挙げれば鹿使いっていうことになるぞ。
「うんうん! それカッコいい!」
彼女がそう言うのなら否定はしない。が、今更ながらに思ったことだけは述べさせてもらう。
「思ったんだが、その名前、自分の能力のことをネタバレしてないか? 相手のスキルネームを考えること自体は悪いことじゃないんだが......」
彼女は俺を睨んだ。え、なんでだ? 隣には小刻みに震えている彼女がいた。その目には涙が浮かんでいた。
「そうですよね......こんなこと考えててもしょうがないですよね。すみません......」
「いやいや違うぞ! 確かにカッコいいとは思ったんだが、誰かに聞かれたらマズいだろ? だからあまり公言しないほうが......」
彼女の表情が変わることはなかった。それどころかむしろ震えが増していた。何もできず動きの止まった俺にムチが放たれた。
「夢のないやつねー。あんなのは気にしなくていいからねー」
「でも、やっぱりこんな名前を作っても敵に不利になるだけじゃ......」
「いいのいいのー。そんときはそんときだから」
バキリアは俺に睨みシミルに笑顔を見せ彼女を慰めた。今更ながらだが、なぜかシミルは同族の俺でなく、悪魔のアイツを信頼している。
ここまでくるとさすがに興ざめだ。俺はテントの中で静かにしていることに決めた。とはいえ簡単に眠れる気はしていなかった。
「待ちなさい傍観者」
「おいおい、俺を悪く言うのは構わないが事実であることに間違いないだろ? お前の能力は名前だけでは把握しずらいかもしれないが、さっきの彼女のは......」
彼女の言葉は帰ってこなかった。というより俺のことを見て何かをひらめいたような顔をした。まさか......
「そうよ
「なんだよその適当な名前は? かっこよくもなんともないぞ」
「当然でしょ? 死ねない能力はあるけど戦闘術はゴブリン以下。仲間が戦ってるのを見ているだけの傍観者。それがアンタよ。まさにぴったりの名前じゃない」
ぶん殴ってやりたいくらいだったが、怯えを見せるシミルの前でそんなことはできなかった。何より彼女の言っていることも、もっともだった。
傍観者。そう、俺は傍観者としてこの世界にやってきたんだ。
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