10th 従者(?)
ゆっくりと状況を知覚していく。
と同時に、脳に負荷が一気にかかってくる。
「くっ......」
そうだ、早く術式を改良しちゃわないと。
だが、行けるか......?
魔導陰陽複合の術を思うままに使ってたあの頃ならまだしも、離れて久しかったし。
......いや、できるかじゃないな。
やるんだ。
ちなみにだが、魔導陰陽複合の術ははっきり言って死ぬほど難しい。
一輪車に乗ってあやとりをしながら額に乗せたボールを落とさないようにするレベルで難しい。
それを維持してる最中に変えようとしてるんだから、ボールの上の一輪車に跨がって5本のナイフでジャグリングをしながら額で皿回しをしつつ前進するようなもんだ。
一瞬のミスが命取り。
余談だが、さっき例として挙げた曲芸は一応俺ができるものを挙げている。
......本当に余談だったな。
まぁ、頑張るとしよう。
いつの間にやら手に持っていた魔導書を見る。
おっ、これは......
どうやら、今回アリアたちが起こした不祥事(脱字など)は予想以上に大問題らしいね。
本当に一級品だ。
これなら、思っていた以上のことができそう。
ちょっと勿体無いけど。
だってさ、これって単体で擬人化できるくらいの力は持ってるし。
まぁ、しょうがないかな。
そうと決まれば。
まずは俺の魔力を魔導書に流していく。
......うん、ある程度は定着したかな。
そしたら次だ。
「〈
名前も矛盾していれば、在り様もまた矛盾するものなのか。
白くて黒く、光に満ち溢れた影そのもの。
そんな炎が魔導書を包み込んでいく。
この炎は魔炎(魔術的手段で喚ぶ炎)の中でも最上位に位置する〔
これと同格なのは、これと対を為す〈邪なる聖炎〉くらいのもんだろう。
あとは、格上で最早魔炎の域を超えてしまう〈深淵なる炎〉しか思い浮かばない。
つまり、魔炎の最強の双璧の片割れというわけだ。
なんでわざわざそんなものを引っ張り出してまで魔導書を燃やしたのかっていうと、魔導書に内包された力を具現化するためだ。
かなり簡単に例を挙げるなら、卵の殻を割るのと一緒だな。
中身が欲しいから、外側をなくす。
まぁ、単純な話だね。
んで、その
本来なら殻がなくなった時点で内包された力も霧散するはずなんだけど、そこはさっき魔力を使ってコーティングしといたから大丈夫ってわけ。
これで魔導書の純粋な力が取り出せたから、あとは術式を書き換えて魂を融合させるだけ。
さっきまで術式を維持しながら〔
幸いなことに陣にもまだ余裕はある。
俺は術式の維持に、改変に、意気揚々と臨むのであった。
* * * * *
「はぁ、やっとできたかな......?」
にしたって疲れた。
これが魂を扱うS級の術式であることを完全に忘れてたな。
『シクレ、どれくらい経った?』
《1時間ほどです》
ふむ、疲労度の割にはそこまで時間は経ってないね。
やっぱり、新しい体だから集中力も落ちてるのかな?
まぁいいや。
さっさとこの術式を完全に発動させてしまおう。
目を瞑り、厳かに発動のための鍵言を唱える。
最初のワードを起点に、ゆっくりと光る陣。
鍵言が終わりに近づくたびに、それに呼応する様に光量が増していく。
そして、鍵言の最後の一言を唱え終えた時、陣の光は直視できないほどになっていた。
それから一瞬の間を置いて、さらに光量は増す。
さらには盛大に明滅を始めた。
《............マスター、どうやらもう大丈夫な様です》
シクレの言葉に、そっと目を開いた俺は......
目の前の光景に困惑するしかなかった。
「どういうことだ......? いや、ノイとアンはどこに行った?」
俺の目の前にはいたのは、くすんだ金髪と青みがかったグリーンの瞳の少女だけだった。
まさか、あの魔導書が強すぎた?
いや、有りえない話ではない。
触媒が強すぎた結果、魂だけを融合させてアンの体に収めるはずが、体ごと融合してしまったのか?
今目の前にいる少女の外見は、丁度2人を足して2で割った様な雰囲気だ。
それに、そう考えると色々と辻褄があうな。
......一つだけ気になる点はあるけど。
なんで、着てる服がメイド服なんだ?
それも、しっかりとしたロングスカートの。
全くもってわけがわからないよ。
「あぁ、頭痛が痛い......」
《変なことをおっしゃいますね、マスター》
確かに変なことを言ったな......
疲れてるのかも。
いや、疲れてるな。
「そうだよ、あの娘がメイド服を着てるのも、きっと俺が疲れてるが故の幻覚なんだよ。うん、そうに違いない。あは、あはははは」
《ま、マスター、お気を確かに!》
はっ!?
『危なかった、助かったよ。ありがとう、シクレ』
それで、まずはこの娘だよなぁ。
「ん......うゅ......」
起きたのかな?
あっ、閃いた。
あの魔導書の擬人化形態が従者型だったから、それに引っ張られたんだ。
......今閃いてもなぁ。
「あれ? ここは......それよりも、私は......???」
なんか、嫌な予感しかしないな。
とりあえず、声はかけるけど。
「大丈夫?」
当たり障りのない言葉。
なんて返して来るのかで、この先の対応がだいぶ変わる。
「あれ? だれ?......じゃない、クレハちゃん。ん? クレハちゃんって誰だ?」
あー......
まぁ、ただの記憶の混濁だとは思うけど。
なんてったって、体ごと融合させるなんて流石に初めてだからなぁ。
「ほら、とりあえず落ち着いて」
「あ、うん。すぅ〜、はぁ〜」
う〜む、この先どうなるのかな。
「あ、なんか、落ち着いて着た、かも? クレハちゃん......は、すごく可愛い娘、で。あ、なんか思い出して来たかも。それで、私は......? わかんないや」
なんか、ふわっとした喋り方だなぁ〜。
内容は結構深刻だけど。
多分、自分のことがわからないのは3つの因子が混ざっちゃったからだろうな。
自我がまだうまく確立できていないのか、確立するために所々削ったのか。
まぁ、そんな詳しいことはわかんないし、なる様になればいいかな。
「少しは落ち着いた?」
「うん、落ち着いて来た!あ、それでね、私ってなんか名前がわからないから、クレハちゃんが名前つけてくれないかな?」
んっ?
「お、俺が?」
「うん、クレハちゃんが」
く、困ったな。
あんまりネーミングセンスには自信がないんだけど。
うーん、ノイとアン、それと名も知らぬ魔導書が融合した姿だから......
ノア、アン......ノア?
うん、いい感じ。
あとは、苗字も必要だよね?
魔導書の要素も入れたいな。
魔導書......グリモワール?
そのまんまってのもなんだかなぁ。
じゃあ、グリモワールの“モ”と“ワ”を抜いて、グワール。
なんか変だな。
う〜ん、しょうがないし、いい感じのも思いつかないから“ノア・グリモワール”で決定かな。
《良いのではないでしょうか。語感も、しっかりと嵌る感じですし》
『そう? ありがとう』
シクレのお墨付きももらったし、安心して提案できるな。
「“ノア・グリモワール”でどうかな?」
少し反応が怖いな。
なんていうかな。
「“ノア・グリモワール”......? うん、良い感じ!ありがとう、クレハちゃん!」
よかった、受け入れてくれたみたい。
なんか妙に軽い気もするけど。
「えっと、じゃーねー、名前をつけてもらったから、私はずっとクレハちゃんに仕えるね!」
「......ん?」
え?
ちょっと待って待って。
名前をつけたから仕えられる......
......よくある感じだなぁ。
まぁ、ノアも居場所はないだろうし、それなら、いっそ従者して付いて来たもらった方が良いよね。
っていうか、ノアさん喋り方幼すぎじゃないですかね。
外見も14,5歳と、幼く見えはするけど。
それにしたって、なぁ。
別にそんな気になるってほどでもないんだけど。
色々と混ざった結果だよね、これも。
少しばかり苦笑するのは許してほしいかな。
「うん、よろしくね、ノア」
返事をすると、ノアは目に見えて顔色を明るくしながら言った。
「うん、よろしくっ、クレハちゃんっ!」
ちょっと、言葉遣いからして本当に従者なのかとか疑問は残るんだけど。
まぁ、良いよね。
消えゆくはずだった2人の魂を、無理やりだとはいえちゃんと救うことができたんだから。
- - - - - - - - - -
–おまけ––ノアの従者力–
「ふぅ、でも流石にちょっと疲れたなぁ」
「大丈夫? クレハちゃん」
「うお、一瞬で後ろに......?あ、しかも、マッサージ......」
「どう? 気持ちー?」
「あ、やば、これやばいっ! めっちゃ気持ちい!」
......以上、実は高い従者力の一端を見せるノアさんの話でした。
- - -
というわけで、いかがでしたでしょうか?
って言うか、遅刻回避!!!!
やりましたっ!
そんで、記念すべき10話目は紅羽、シクレに続くレギュラーキャラの登場回でした。
ノアの性格や言葉遣いは、かなり迷ったのですよ。
ってか、これで本当に大丈夫なのかな?
みんな、満足してくれるかな?
実を言うと、僕的に口調とかがある程度ユニークな方がわかりやすいからと言う理由でノアの口調が決定してたりしてなかったり(実際ほぼなんも考えてなかった)。
文句や思うところがあれば、感想やTwitterのDMで言っていただければと思います。
もちろん、レビューもお待ちしておりますよっ。
では、またお会いしましょう!
次回の更新は12/23です。
色々と鬱陶しさすらあるかもしれないTwitter
→@tama_717
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